記憶探し

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さっきからやけに上機嫌なのはそれか、と納得しつつあった頃。泉の水を受け取り、私はルークにこの森に住んでいる理由を聞いた。 「なんでルークはこんな森に住んでいるの?」 ルークは笑みを崩し、考えるように目を閉じて、頭をコンコンと叩いた。 「えっとほら___僕はこの森にずっといるんだよね。そうそう、いつからいるの?って言う質問はやめてくれよ。僕はいつから来たのか覚えていないんだ。」 いつから来たのかわからない___か。 ルークも元は私のように、 違う場所からこの森に来たのか、と思った。 ルークの話した、この森を理想郷と呼び、 出られなくなってしまった女の子の話。 ルークも同じように森から出られないのだろうか? 泉の水を一口、おそるおそる、飲んでみる。案外、透明で綺麗な水は喉を優しく撫でた。 「おいしい。正直、あまり美味しくないのかと思ってた。」 「だろうね。あんなに嫌そうな顔されたんだから___。」 気のせいか、ルークは少し唆るような表情を浮かべた。微かに官能的な雰囲気が漂ったルークに、私は目のやりどころに困った。 そして、なぜか少し嬉しそうなのがなんか嫌だ........。うっとりとしたような表情を向けるルークをよく見てみると、彼の顔立ちはかなり整っていた。 間近で見る機会なんてなかったから、 私はルークの顔もよく分かっていなかったんだ。 「僕もよく、エリスの泉に飲みにくるんだよ、この水。本当に美味しいよね。僕はこの泉のことを『清澄の鏡』と呼んでいるんだ。」 この泉によく似合うと思わない?、とルークは私に、同意を求める。なかなかセンスの良い名前じゃないか、と上からだと思いつつも感心した。 「私......こんな顔をしていたのね。鏡なんて、持ってなかったから___。」 泉の水面に映る自分の姿をまじまじと見つめる。落ち着いた栗色の髪に金髪が少々、混ざっていた。髪は波のようにウェーブしていて、ふんわりとした印象を与える。 目は落ち着いた、美しく光る深紅。本当にこれは私なのか、と疑問が脳裏をよぎるが___これが本当の私の姿なのだと、認めることしか出来なかった。 想像より遥かに美人だった私の容姿に驚きを隠せなかった。 「ふうん。君は自分のことが可愛い、って思ってるわけだ。まあ確かに、ある程度は可愛げがあるかも知れないけど。」
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