記憶探し

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ルークは寂しかったのだろうか?こんな広い静寂の森に一人で住んでいたのだから。 少し気にかかることがある。無限に続くように見えるこの森にルークの知人はまだいるのか。 初めて会ったとき、ルークに久しぶりに普通の人間にあった、と言うような反応をされた。その少女のようにこの森に、他にも人間はいないのだろうか。 「いないね。君以外はいないよ。いや__成り切ってしまった、と言うべきか。」 相変わらず私の心の内の思考を淡々と読み取るルーク。慣れてしまったのでもう何も感じなくなってしまったが、あんまり良くない行動だと思う。 実に、知られたくないことを隠し通せないのが、もどかしい。 「成り切ってしまったって__どういう意味?ルーク。人間が“人間ではないもの”に変わってしまったってこと?」 「その通り。この森のこと、少しずつ理解していってるんじゃない?___エリアス。」 人間ではないもの。 人ではないもの、人ならざるもの___。 この森にはそんな力があったなんて考えもしなかった。人を"人ではないもの"に変えてしまう魅惑的で偉大な"力"___。 それはとても魅力的で鮮麗なものだ、と言うように思えたが、他の意味で思うことがあった。 この森は、妖しい。 人をいとも簡単に引き込ませてしまうような人知を超えた偉大なる、壮大な力が宿ったこの森は、ある意味危険であるのかもしれないと__私はそう思うようになっていた。 いつも危険なことは無知から生じるものだ。 刃物が人のなめらかな肌を容易く切り付けられること、言葉は簡単に鋭い歯のついた、恐ろしい武器になり得ること___。 薔薇がもっとも相応しい例えであると言える言葉が一つ、ある。美しいものには棘がある、というものだ。 美しいゆえに魅力に惹かれ、近づいてくるものに脅威を与えるため、又は簡単に届かぬ高嶺の花___のように思わせるためなんだろうか、と私はこの森に来て初めて思った。 そしてそれがこの世の理なのだ、と理解することができた。
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