記憶探し

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「なーに考えてんの、エリアス。早く行こう。ずーっと答えが曖昧なことを考えても仕方ないでしょ?かく言う僕もこの森に来たとき、君と同じことを思ったけどさあ___。」 ルークはそう言って呆れたように笑った。乾いたような笑い方が印象的だった。 「だって、この森のことが気になって仕方がないんだもの。ルーク、あなた他に何か知らないの?」 ルークはうーん、と低く唸り、 それから私に歩き出すよう促す。 「僕もこの森に来たとき、君のようにこの森のことが気になった。興味が湧いたんだよ。こんな夢幻のような世界が、誰もがこんな綺麗な景色を見ることができたら___と想像してうっとりとするもんさ。だから君は別に変ってわけじゃないんだよ。」 「私は何か知らないの、って聞いたのに何で話を逸らすのよ。」 ルークの返答は私の質問とまるで一致していない。再び同じことを聞き返す。 「何か、他にこの森について知らないの?」 「そうだね......。この森は人を引き込む力があるっていうこと、かな。」 詳しく説明してほしい、と思った。さっきと言っていることが全く同じように思えたからだ。 「詳しく、かあ。僕も詳しくはないんだけど...この森は美しいってことはよくわかるよね。そう、人が惹かれる神秘的な美しさがあるんだよ。そして___まるで花に群がる虫のようなものなんだ、僕らは。この森が花で、虫が僕達さ。人を酔わせる........人を"狂わせる"。この森は、君が例えたように、そんな危険で美しい薔薇のような森なんだ。」 私が例えたように、この森は薔薇のようだ、とルークも意見に賛同してくれた。やっぱり息を呑むほど美しいものを見て感傷に浸る、という感覚は誰にとっても同じものらしい。 それはどこか普通じゃないルークも同じだった。 「この森には人を引き込む、と同時に人を離さないようにする___依存させる性質があるような気がするんだけど、どうなのかな。」 この森は人を“人ではないもの”に変える力がある___つまり人を力で思うように操っているように見える。 この森の美しさに取り憑かれた人間は時が経つのも忘れて___ついには人ではなくなってしまった。 それが私が今思っている考えだった。 この森のことをおかしい、普通じゃないと思って恐れるべきだと思うが____人はとことん美しいものに弱い。 ルークが言っていたこの森から出られなくなった少女の話と同じく、人は簡単に美しさの虜となってしまう。
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