六花さんが降る

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 六花さんと出会ったのは、小学五年の二学期の終業式、数年に一度の大雪の日のことだった。  最初に書いた家訓はお母さんの家に古くから伝わるもので、ぼく自身、小さい頃からしつこいくらいに言い聞かせられてきたものだ。  ぼくのお母さんのご先祖は元々北国に住んでいたのだけど、ずっと昔に暖かなこの街に移ってきたらしい。ここには雪なんてほとんど降らないし、いつもは家訓のことなんて忘れて過ごしているのだけど、それでも年にほんの数日だけ雪が降ることがある。積もった日の外出は絶対禁止となり、学校は必ず休まされる。小さなころは家訓を信じていたからおとなしく従っていたけれど、小学五年生になった今年のぼくは、これまでとはちょっと違った。  だってこんな家訓、絶対にまともじゃない。友達はみんな放課後の公園に集まって雪だるまを作ったり雪合戦を楽しんだりしているのに、どうして自分だけ学校を休まされて家に引きこもらないといけないんだろう?  六花とかいう妖怪みたいな女がいるはずがないし、そもそも何も悪いことなんてしていないのに、この家の男だけがそんな目に遭うなんて、おかしいじゃないか。  小五を子供扱いするのはやめて欲しい。去年まではサンタを信じていた子も、今年はサンタクロースなんていないってみんな言ってる。あれの正体は親だって。だからこの家訓も、どうせ雪で浮かれた子供が事故にあわないようにと大人がでっち上げた嘘なんだ。そんな家訓をいつまでも信じているなんてばかげた話だ。  その日は終業式で、数年に一度の大雪が降った。雪がめったに積もらないこの街にも、朝起きてみると五センチ程度の雪が積もっていた。当然のように、学校は休まされる。「雪が降っている間は絶対に家から出るんじゃないよ」としつこいくらいに念を押しながら仕事に出かけたお母さんをおとなしく見送ったぼくは、さっそく上着を着込んで長靴を履くと、近くの公園に出かけた。
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