六花さんが降る

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 本当は振り向きたくなんてなかったのだけど。その声がなぜかとても悲しそうに聞こえたので、ぼくはつい足を止めてしまった。  恐る恐る振り返る。六花さんは落ちてきた場所にじっと座り込んだまま、こちらをまっすぐに見つめていた。 「外に出て来てくれてありがとう。寒さで辛い思いをさせてごめんなさいね」  話している最中にも、氷の涙がぽろりとこぼれた。それを見て、思わず胸がどきりとする。  ――このままそばに居たら、死んじゃうかもしれないのに。そんな死神みたいな人を、「きれい」だと思ってしまうなんて。 「この街に雪が降れば、あなたに会える……あなたを通して、『あの人』を感じられる。だけど、そうまくん。あなたはまだ小さいから。今日は帰りますね。――また雪が降ったら、私に会ってもらえるかしら」  この質問に「はい」と答えたら。次こそは本当に凍らされてしまう気がする。だけど「いいえ」と答えたら。それはそれで何をされるか分かったものじゃない。  どう答えたらいいか分からないまま、その場にじっと固まっていると、六花さんはゆっくりと立ち上がって、にこりと微笑んだ。 「この街に雪が降って、あなたがもう少し大きくなったら、きっと――。楽しみにしています」  その時、再びごおっと強い風が吹き抜けて、地面に積もった粉雪が大きく巻き上がった。  ――それまで、元気でいてね。  優しい声が、耳元に響く。激しく吹き上がる風から身を守るように顔を手で覆って、再び前を見ると、そこにはもう、誰の姿も見えなかった。
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