6人が本棚に入れています
本棚に追加
……そんな話、人に話したって信じてもらえないだろうなぁ。
お母さんなら、信じてくれるかもしれないけど。でも、この話をすればあの日に外へ出たことがバレて絶対怒られるし、監視の目だって厳しくなるだろうから、黙っておいたほうがいいだろう。
六花さんは、またぼくに会いに来るって言った。全然怖い印象はなくて、優しくて寂しそうな人に見えたけど、その肌や息に感じる冷たさはどう考えてもヒトじゃなかった。次に会った時には本当に命がなくなるかもしれないとも思う。
――だけど。あの日、家訓を破ったことを反省しているかと言われたらそうでもない。本当のことを言うと、六花さんにまた会ってみたい、とも思っている。
あの日、体を冷やしすぎて翌日から三日寝込んだくせに何考えてるんだよ、って自分でも思うのだけど。
六花さんの言っていた「トウジュロウさま」って誰なんだろう、とか。ぼくの匂いがどうとか、ってどういうことなの? とか。色々知りたいことができたし、柊家の家訓のことも、前よりずっと気になっていて。それに、六花さんはぜんぜん鬼ババアじゃなかった。氷になって落ちた涙は宝石みたいにきれいで、その声は優しかった。あの人の正体が、悪魔みたいな妖怪だとはどうしても思えなかった。
でもだからって、のこのこと大雪の日に出ていくほど心を許していいとも思えない。ほんの数分の出来事だったのに、凍えて死にそうだって本気で思ったのは事実だから。
次の大雪は、いったい何年後にやってくるだろう。こちらから会いに行ったりしたら危ないだろうな。いくら六花さんがかわいいからって、アイドルじゃないんだし、そもそもヒトでもないんだから!
……結論。
家訓もあることだし、次は本気で死ぬかもしれないから、雪が降る日は決して家から出ないこと。間違ってもうっかり外に出ちゃわないように、未来の自分にここでしっかりと書き残しておこう。
最初のコメントを投稿しよう!