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ひどく蒸し暑い夜だった。右手に提げたコンビニの袋が歩くたびにカサカサと音をたてる。早く帰ってシャワーを浴びたい。クーラーの効いた部屋でビールを飲みたい。俺の願いはもはやそれだけだった。
あともう少しでアパートに着く。自然と俺の足は早まり、心の中であと少しあと少しと繰り返す。とにかく早く蒸し風呂のような外から解放されたい一心で足を動かし、ようやくアパートの階段が見えてきた、その時だった。
……こんなところに道なんかあったっけ?
アパートの斜め前には、道路を挟んで小さな公園がある。公園の横にはひなびたうどん屋があって、その横には喫茶店。店同士は確かくっついていたはずだ。なのに細い路地がある。
いや。俺が気付かなかっただけで本当は前からそうだったのかも。そうに違いない。いつも道路を挟んだこちら側から見ているだけで、俺はうどん屋にも喫茶店にも行ったことがない。だから知らなかっただけだ。
そう自分に言い聞かせるも、どうにも納得がいかず、俺は気がついたら道路を渡ってしまっていた。確認したところでなにがどうなるわけでもないが、なぜか見てみたくなったのだ。
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