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ミクは走った。一目散に玄関へ向かった。私は正義くんに熱湯を掛け続けた。ついでにボディーソーブも頭から掛けてやった。夏用のメンソールの効いたボディーソーブだ。目に入ったらしく正義くんは顔を掻きむしっていた。
「痛い! 目が開かない! 何するんだ!」
正義くんは私に掴みかかってきた。しかし私はお湯を掛け続けた。青白かった正義くんの顔が赤くなってきた。正義くんは私からシャワーヘッドを奪おうと私の手を探り始めた。取られてたまるか! 私は正義くんの顎を膝蹴りした。
「そっちこそ! よくも私を殺そうとしたわね!」
「約束を破るからいけないんだ! お前のせいだ!」
「約束を破るのと強盗殺人とどっちがいけない事だと思ってるのよ! 昔はそんなじゃなかったじゃない。優しかったじゃない。何でそんな風になっちゃったのよ。こんな大人になるって知ってたら約束なんかしなかったよ!」
悔しくて涙が出てきた。幼かったとはいえ、こんな男と結婚の約束をしてしまったとは。王子様のままでいて欲しかった。他の人と結婚をしてしまった事を後悔させるほどのイイ男になっていて欲しかった。何処で道を間違えてしまったの?
「大丈夫ですか!?」
制服姿の警察官が何人もお風呂場になだれ込んで来た。ひとしきり正義くんは暴れ抵抗したが目もまともに開けられない状態なのですぐに取り押さえられた。
「絵美大丈夫か!?」
次にお風呂場に来たのは守だった。ミクをしっかりと抱きかかえていた。
「仕事中なんじゃ……」
「警察から連絡が来て急いで帰って来たんだ。良かった……無事で良かった……」
警察なら通報のあった家の世帯主くらいすぐに分かる。それで連絡を取ってくれたのだろう。
「大丈夫か? びしょ濡れじゃないか。血も出てる。ミクも怖かったな。ごめん、家にいてあげられなくて。ごめん……ごめんな……」
手から力が抜け私はシャワーヘッドを落とした。まだ出続けている熱湯で風呂場は湯気だらけ、サウナ状態だ。終わった。終わったのだ。
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