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本当にもう少しだった。夫みたいにお腹が出ていれば引っ掛かってしまうだろうが、正義くんは痩せていた。ガリガリだった。昔の艶々していてピンクがかってはち切れそうだった頬はゲッソリと削げ落ちていた。思わず涙が出てきた。
「正義くん、どうしちゃったの? 何でそんなに痩せてるの?」
「ん……まあ色々あったんだ」
「ご飯食べてるの?」
「食べてるよ。まあお金があったらお酒買っちゃうけどね」
話しながらも正義くんはずんずんと体をねじ込んできていた。このままだと頭から浴槽に落ちてしまう。
「あ、そうか」
正義くんは一旦外に出て、今度は足から入ってきた。そのまま正義くんはスルリと窓を抜けた。
「やっと入れた。ちゃんと戸締まりしておかなきゃね」
正義くんは振り向いて窓に鍵を掛けた。そしてゆっくりと振り向いた。
「さあ、約束だよ。結婚しよう。今から絵美ちゃんは俺の奥さんだよ。だから俺の事を守らなきゃいけないんだよ」
正義くんは浴槽の縁ををまたぎ近付いて来た。
「イヤー! 来ないで!」
近くにあった洗面器を投げつけた。しかし正義くんには当たらず壁にぶつかり虚しく床に転がった。正義くんは一瞬で目の色を変えた。
「何をするんだ……それが夫に対する態度か!」
私は手当り次第に物を投げつけた。シャンプーやコンディショナーのボトル、掃除用のブラシ。今度は当たった。正義くんの顔から血が流れてきた。
「絵美ちゃん、少し会わないうちに変わっちゃったんだね。こんな乱暴な女になるなんて」
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