いつかの王子様が……

9/11
前へ
/11ページ
次へ
 正義くんは一気に力を入れた。首に指が食い込んでくる。朦朧とする意識の向こうで玄関のチャイムが聞こえてくる。何度も何度も止む事なく聞こえてくる。警察が来たのだろう。でも玄関には鍵が掛かっている。玄関だけではない。家中全ての鍵が掛かっている。警察は家に入って来られない。さっさとガラスを割って入って来ればいいのに。私が生きている間に……。 「ママ!」  ミク! チャイムがうるさくて起きてしまったのだ。そして私がいない事に気付いて探しに来たのだろう。ミクは私の姿を見て硬直していた。 「絵美ちゃん……いや、絵美ちゃんの娘か? 絵美ちゃんの小さい頃にそっくりだ」  正義くんは私の首から手を離した。 「何て名前? 絵美ちゃんそっくりだ。可愛いね……」  ホッとしている暇はなかった。正義くんはミクに向かって歩き始めた。 「ミク逃げて!」  しかしミクは動かなかった。動けなかった。 「ミクちゃんていうの? 可愛いね。大きくなったら結婚しようか……」  瞬間私は立ち上がった。 「ミクに近付くな!!」  そうだ。わたしはミクを守らなきゃいけなかったんだ。こんな所で簡単に首を締められてる場合じゃなかったのだ。私が死んだら誰がミクを守るのだ。私しかミクを守れない。  私はシャワーヘッドを手に取り勢いよくシャワーを正義くんに掛けた。温度は一番熱くして。 「アチッ! やめろ! アチーーッ!」 「ミク、玄関開けてきて! 早く!」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加