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大きくなったら結婚しようねーー。
窓から優しい陽射しが降り注ぐお遊戯室で、私と正義くんは指切りをした。5歳の時だった。
「ママ、わたし大きくなったら和馬くんと結婚するの!」
幼稚園に通っている娘のミクがそんな事を言い出した。そのせいか自分の子ども時代の記憶が鮮やかに蘇ってきた。正義くんとは小学校に上がって別々のクラスになってから話さなくなった。今はどこでどうしてるのかさえ知らない。私は違う人と結婚した。
「和馬くんてどんな子?」
「あのね、アニメの王子様の物まねができて、アニメの歌が上手で、アニメの絵を描いてくれるの!」
ミクはアニメの中の王子様が大好きだ。その王子様の物まねができて絵を描いてくれるとなると好きになるのも頷ける。
正義くんも王子様みたいだった。王子様みたいにカッコよく「絵美ちゃんて可愛いね」と会うたびに言ってくれた。私は催眠術にかかったように正義くんを好きになった。
夫はそんな事は一切言わない。シャイと言えば聞こえはいいが口数の少ない人だ。たまには言ってもらいたい。結婚して子供がいても私は女だ。いつか白馬に乗った王子様が……などと時々妄想してしまう。その王子様はいつだって正義くんだった。
「ママが結婚の約束した人はどんな人だったの?」
「え! パ、パパだよ」
「幼稚園の時?」
「パパとは大人になってから知り合ったんだよ」
「幼稚園の時は? ハツコイの人はどんな人だったの?」
「え……え〜っと。そうだなぁ。背が高くて、目が大きくて、眉がキリッとしてて、鼻が高くて」
「あの人みたいな人?」
ミクがテレビを指さした。
『資産家強盗殺人犯の砂田正義容疑者はいまだ逃走中です』
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