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並べられたのは、数枚の写真だった。トランプマジックの種を明かすように1枚1枚置かれていくそれには、先輩の腰に馴れ馴れしく手を回す例の男の姿やら、彼から送られてきたメールのスクショ、木野さんへの狂言ストーカーの証拠と思わしきメッセージのやり取りまで、裁判なら今すぐにでも刑が確定しそうなアレコレが印刷されていた。
先輩は「こっちは使わないようにね、あくまで私の方のだけ」と木野さん関連の数枚を指差して付け加えたが、それに頷く気力や余裕は俺には無かった。
先輩の話を真面目に受け取りつつも、あのカップルを依頼主としてそれなりに信用していただけに、よく解らないダメージで頭の中がぐちゃぐちゃだった。正直、苦笑いするしかない。おいおい、マジかよ、と。
信じる気になったか、とは訊かれなかった。俺の顔に書いてあったに違いない。先輩はゆったりと足を組み替えて、その膝に両腕を乗せて軽く身を乗り出すと、密談のトーンで続けた。
「彼らが結婚しようがしまいが、そんな後日談はどうだっていいの。彼らの晴れの日が、一生忘られない最悪の1日になれば、それだけで」
そして右手を伸ばすと、手の内に忍ばせていたUSBメモリを写真の横にそっと添えた。 見つめてくる目は本気そのものだった。澄んだ瞳の奥に憎しみや怒りや悲しみや、言い知れない感情が渦を巻いているのが見て取れた。
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