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さっきまでの饒舌が幻だったかのように、先輩は静かに長く溜息だけ漏らして背凭れに寄り掛かった。前髪を掻き上げる仕草が、白旗を揚げる動きに似ている。
「あの2人にはストーカーをでっち上げた罪がある。でも、私は……あかりを助けてあげられなかったのに、償うこともできない」
嘲笑を帯びた吐露は、俯く顔をひどく疲れ切った色に見せた。
きっと先輩は、食い止めたかったんだろう。講師の冤罪を晴らした時のように、木野さんが追い込まれる前に救いたかった。しかし、できなかった。
「あかりから何度も相談されたの。一緒に警察にも行った。でも、仕事も忙しかった時期で…付きっきりで守ってあげることは叶わなかった」
「だから、こんなことを?」
先輩は困った風に笑って、一度頷いた。
「…私だけ平穏無事なんて、許されないもの」
ソファに凭れて腕を組む姿は、取り調べに自供した容疑者のようだった。彼女自身がそう見せようとしている気さえする。
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