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俺は躊躇いがこびりつく口に初めてワインを含ませ、アルコールを飲み下してから、ふっと息を吐いた。それだけ覚悟が必要だったのだ。
「先輩って、意外と自分勝手ですね」
意を決して言葉にすると、水淵先輩の反応は存外薄かった。思い返せば、後輩に何か言われて怒る人でもなかったが、水淵先輩に意見するという人生初の場面に、俺の心臓は今すぐにでも口から飛び出しそうに暴れ狂っている。
「仇討ちったって、水淵先輩がそれで不幸になったりしたら、木野さんは悲しむに決まってるじゃないですか。木野さんが同じことしようとしたら、先輩だって止めるでしょ」
見つめ返す瞳が僅かに揺れた気がした。たぶん、その瞼の裏には木野さんの顔が浮かんでいるんだろう。
俺の脳裏にも、大学での一件が蘇る。あの時、聞き込みをして回る面子の中に、木野さんも入っていた。
木野さんもまた、困っている人を放っておけない優しい人だった。
「こんなこと…先輩が楽になりたいだけなんですよ。木野さんは絶対望みません」
机上の写真に目を落とすと、ずっと組まれていた水淵先輩の足が、いつの間にか解かれているのに気付いた。足を組む格好はある種のバリケードだったのかもしれないという勘繰りは、腹の中にしまっておく。
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