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「その披露宴をぶち壊してやりたいの。だから山森くん、あなたに協力してほしい」
先輩の真剣な眼差しに貫かれ、そそくさと目を伏せると残業明けの深爪だらけの手がぎこちなく指を組んでいた。
「…つまり、当日、依頼されたのとは別の動画を流せってことですか」
「そう」
間髪入れずの肯定に、指に力が入って爪が皮膚に食い込んだ。ああ、痛い。痛い。
いったい何を浮かれてたんだ、俺は。久しぶりに会いたいとか言われて、ホテルの部屋に呼び出されて、何を期待した?
あの水淵先輩が、水淵マリアが、魂胆も無く俺なんかに会う訳ないだろ。
ああ、痛い。
「…すいません。俺も一応、仕事でやってるんで…」
「わかってる。極力、あなたに迷惑はかけない。直前に擦り替えられたことにして」
わかってる、じゃないんだよ。何もわかってないじゃないか。
大体何なんだよ、ぶち壊すって。恨みでもあんのかよ。まさか元カレ?
ーーー何でもいっか。
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