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「木野さんに、その話は…」
何となく察しつつも訊ねると、水淵先輩はやはり首を横に振った。
俺は出されたワイングラスに未だ指も触れられないまま、少し背を丸めて前傾姿勢を取る。額を寄せるという慣用句は言い得て妙だと思った。
「でも、なんで先輩が…。警察に任せる訳にはいかないんですか?証拠は掴んでるんですよね?」
「捜査するには被害者が矢面に立つことになるでしょう」
「あくまでも木野さんには知らせたくない、と」
今度は縦に動いた頭に釣られ、長い髪の先がささやかに揺れた。
「もし実行したとして…俺が本当に〝脅された〟って証言したら、回り回って木野さんにも伝わるんじゃないですか?警察や関係者から」
「私に動機があれば、あかりにまで捜査は及ばないはずよ」
「動機って…」
「〝しつこく付き纏われた腹いせ〟。」
早押しクイズのように問いを遮って返された答えに、思わず「え?」と漏らすと、先輩は羽織ったジャケットの内ポケットを探りながら解答の補足を始めた。
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