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神崎命。
そうだ、私の名前は、神崎命だ。
それを思い出した瞬間、忘れたかった記憶が蘇ってくる。
(どうして忘れてたんだろう)
私は、学校の屋上から飛び降りて、自殺したんだった。
「自殺した人はさ、地縛霊になりがちなんだよね。身体が死んでも、魂が死に納得してないことが多いからさ。特に、若い人の場合は」
君みたいなね、と少年――成仏屋は、私を見る。
「未練がある魂が地縛霊にならないようにするには、四十九日が終わるまでに、きちんと成仏することが必要なわけ。で、君の四十九日は、今日で終わりなのね。ここまで言ったら、意味、わかるよね?」
私は、地縛霊になる一歩手前。つまり、成仏屋はそう言いたいのだ。
私が頷くと、成仏屋は満足気に微笑んだ。死神が笑ったら、こんな感じなんだろうな、という笑顔だった。まぁ、私はもう死んでいるから、死神はおかしいんだけど。
それにしても、もう死んでから四十九日が経とうとしているのか。そのことに、私は衝撃を受ける。私は夏休みに高校の屋上に忍び込んで、身を投げた。真夏の昼間。色んな部活が活動している時間帯だった。運動部の掛け声やら、吹奏楽部の華やかな楽器の音やらに包まれて、私は人生を終えた。あの、笑ってしまうくらいに暑苦しい真夏の昼に、私はずっと、閉じ込められているのだ。皆には、もう秋の足音が聞こえてきているはずなのに。
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