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ふと気が付くと、私は空の中に立っていた。
白んだ青の中に、淡い桃色が混ざった、水彩画の空みたいだ。何だか妙に現実味がなかった。びゅう、と強い風が制服のスカートを揺らす。
「さあ、さっさと飛んじゃいなよ」
後ろから、少年のような涼やかな声が聞こえてきた。
(飛ぶ?)
私は、足元を覗き込む。その瞬間、身体を動かすことが出来なくなってしまった。
「どうして……私……」
空の下には広がる運動場。視線を真下に移すと、そこにはアスファルトの地面があった。私は、空に立っているんじゃない。
――私は、学校の屋上の縁に立っている。
ぐにゃりと、視界が歪む。こんな所に居たくない。しっかりとした地面に足を付けたい。そう思うのに、どうすることも出来ない。ただ、時間だけがゆっくりと過ぎていく。
「もう。今飛んじゃえば、楽なのに」
またさっきの声が聞こえる。しかも、さっきより随分近い所から。
私は、そっと声がした方向に顔を動かす。急な動きをしたら、バランスを崩して落ちてしまいそうで怖い。ゆっくり、ゆっくり。そう心の中で唱えながら、顔を右に向ける。
すると、目の前に少年の顔があった。
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