オペラ  理想的な家族9ー小太郎

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 篠山家を出て、時計を見ると、まだ店は開いている時間だった。  だが急いで帰る気力もなく、トボトボと駅までの道を歩く。早く戻らなければと思うのだが、今どんな顔で店長に会えばいいのか分からなかった。  凪はあの後笑顔をつくり、 「でも、今日は助かりました。ありがとう」  と頭を下げた。  十かそこらの子に、そんな風に礼を言われて、撫子はどんな感情を持てばいいか分からなかった。  あんな風に家族を孤独にしている、店長の奥さんを許せないのか。  既婚者だと知った日に暴かれた、自分の気持ちを許せないのか。  立ち尽くしていた撫子に凪はすまなそうに言った。 「こころが帰ってきたから、もう大丈夫。撫子さんは戻って下さい。それから」  撫子は聞くしかなかった。 「撫子さんは悪くないと思うけど、僕はこころの方が大事だから、ここにはもう来ないで欲しい」  さようなら、と凪に言われて、撫子は立ち去るしかなかった。
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