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篠山家を出て、時計を見ると、まだ店は開いている時間だった。
だが急いで帰る気力もなく、トボトボと駅までの道を歩く。早く戻らなければと思うのだが、今どんな顔で店長に会えばいいのか分からなかった。
凪はあの後笑顔をつくり、
「でも、今日は助かりました。ありがとう」
と頭を下げた。
十かそこらの子に、そんな風に礼を言われて、撫子はどんな感情を持てばいいか分からなかった。
あんな風に家族を孤独にしている、店長の奥さんを許せないのか。
既婚者だと知った日に暴かれた、自分の気持ちを許せないのか。
立ち尽くしていた撫子に凪はすまなそうに言った。
「こころが帰ってきたから、もう大丈夫。撫子さんは戻って下さい。それから」
撫子は聞くしかなかった。
「撫子さんは悪くないと思うけど、僕はこころの方が大事だから、ここにはもう来ないで欲しい」
さようなら、と凪に言われて、撫子は立ち去るしかなかった。
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