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「わたしが迎えに行きましょうか?」
気が付くと、そう言っていた。
そう言っている自分に気が付いて、撫子は自分で驚いた。
店長が目を丸くした。
「え、いいの?」
そう言いながらも、店長の表情は複雑そうだった。
撫子に迎えにいってもらえれば、自分はこの店を抜けなくて済む。だが、自分の子どものことを人に任せてしまうことに罪悪感を覚える、と言ったところか。
「いいですよ。店長が店を空けるわけにはいかないでしょう。ところで失礼ですが、奥様は」
どうしてわたしは、こんな踏み込んだことを訊いているのだろう?
そう思いながらも、口が勝手に動いていた。
「ああ」
店長の目が少し遠くを見つめた。
「妻は海外で仕事をしてるんだよ。あまりこちらに帰ってこれなくってね」
妻への気持ちやその眼差しの意味。急に店長が、知らないだれかに見えた。
「分かりました。では行ってまいります」
とにかくわたしが迎えに行こう。そうすれば店長も店も助かるんだし、店長の家族も見てみたい。
「小学校の場所とご自宅の鍵をお願いします」
差し出した手に、店長はすんなり鍵を渡した。
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