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「三時間目の初めに頭が痛いと言って来たんですけどね、熱を計ったら八度五分で。二時間目が体育だったらしいんですけど、体調が悪いまま、授業を受けたんでしょうかね」
店長から息子の名前は「凪」だと教えてもらったが、面識がない自分が迎えに行って、果たして大丈夫なのだろうか。今更ながらビクビクして学校に来た撫子だったが、店長が先に連絡を入れておいてくれたらしく、すんなり通してもらえた。
保健室の先生も何も不審がることなく、症状の説明をしてくれた。
当の本人は、熱っぽい目でじっと撫子を見ていたが、一言もしゃべらなかった。
「お前だれだ」とか言われるよりましか。
先生にお礼をいい、タクシーを呼んで、彼の家に向かった。
「お父さんじゃなくて、驚かなかった?」
タクシーの中で気づまりで、思わずそう訊くと、「別に」と凪はそっけなく答えた。
「今日はこころがいないから、どうするかな、とは思ってたけど」
「こころって、お姉ちゃん?」
「そう」
「朝から体調悪かったの?」
「うん」
「じゃあ、休めばよかったのに。体育まで出て」
凪は外を見ながら答えていたが、フッとこちらを見た。
「僕一人だったからね。欠席連絡できなかったんだ。まぁ、行けるかな、と思って」
熱出すんなら、夜の内に出しておかないと。
そう言う凪に、撫子はつい腹が立ってしまった。
「いいから、そういう時は休んだ方がいい」
撫子の強い口調に、凪は驚いて目を見開いたが、すぐに外の景色に目を移した。
「そこ、右」
ぼそりと凪が言ったのを自宅への道案内だと気が付いて、撫子は慌てて運転手に伝えた。
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