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凪は背中ごとこちらに向けていて、ずっとぼうっと外を見ている。もう、しゃべりかけるなと言われている気がして、撫子は口を噤んだ。
熱があるのだから、仕方がない。しゃべるのもきつかったのかもしれない。本当に、わたしったら気が利かない。
撫子も黙って、考え事に沈んでいった。
店長の奥さんって何をしている人なんだろう。
熱が出てもそのまま学校に行くしかなかった凪。誰も迎えに来れないのを、当然のように受け止める。
今日のことを店長は奥さんに伝えるのだろうか。それとも、何も言わないままなのだろうか。奥さんの仕事を邪魔したくないと言って。
でもそれでは、子どもたちが可哀そうだ。罪悪感を抱いたままであろう店長も。奥さんだけが、何も知らずに、仕事に励める。
それって、家族といえるのか?
タクシーが止まって、撫子は我に返った。
一軒の家の前で、車は止まった。住宅街にある、普通の一軒家。表札は出ていない。
「ここ?」
撫子が確認すると、凪はコクンと一度だけ頷いた。顔色が悪くなっている。
撫子は急いでお金を払って、凪をタクシーから降ろすと、店長から預かった鍵で玄関を開けた。
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