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店長かな?
時計を見ると、まだ店を閉める時間ではない。
早く閉めたのだろうか?
そんなことを思っていると、すぐに階段を上ってくる足音が聞こえた。
その音が荒々しく、撫子は身を固くして、ドアを凝視していた。
誰?
バタン。
凪の部屋のドアは、思ったよりは静かに開かれた。
ドアを開けたのは、撫子よりは少し若い女性だった。綺麗な子だ。
そして彼女の全身から立ち上る敵意に、撫子は怯んだ。
「あんた、誰。ここで何してるの?」
最初からケンカを吹っ掛けるような言い方に、撫子はかろうじて答えた。
「わたしはお父さんのお店で働いている加賀美と言います。お父さんの代わりに凪くんを学校に迎えに行って……あの、凪くんが、熱を出して」
彼女の迫力に押されて、最後はしどろもどろになってしまった。彼女が凪の姉の「こころ」だろうか。凪とはずいぶん歳が離れている。撫子とほとんど変わらないように見える。
「だからって、何で家まで上がり込んでいるのよ」
「それは、凪くんがつらそうだったので」
彼女はベッドの近くまで歩いてきて、撫子を押しのけた。凪の顔をみて、おでこに手を当て、ホッと息をつくのが聞こえた。
それから机をチラリと見ると、撫子の顔を睨みつけた。
「それで?人んちの冷蔵庫漁って、おかゆこしらえたわけ?」
その言い方に、さすがの撫子も腹が立った。
「お腹すいているだろうと思って、作っただけです!お母さんも誰もいなくて、熱がある子がここに一人でいるなんて、可哀そうで、放っておけるわけないでしょ!」
そう叫ぶように言い返すと、彼女が手を振り上げたのが見えた。思わず身をすくめると、凪のかすれた声が聞こえた。
「こころ、やめて」
果たして、こころは手を振り上げたまま、止まった。
驚いたことに、彼女は泣いていた。盛大に鼻を啜ると、身を翻して、部屋を出て行った。
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