オペラ  理想的な家族9ー小太郎

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 店長かな?  時計を見ると、まだ店を閉める時間ではない。  早く閉めたのだろうか?  そんなことを思っていると、すぐに階段を上ってくる足音が聞こえた。  その音が荒々しく、撫子は身を固くして、ドアを凝視していた。  誰?  バタン。  凪の部屋のドアは、思ったよりは静かに開かれた。  ドアを開けたのは、撫子よりは少し若い女性だった。綺麗な子だ。  そして彼女の全身から立ち上る敵意に、撫子は怯んだ。 「あんた、誰。ここで何してるの?」  最初からケンカを吹っ掛けるような言い方に、撫子はかろうじて答えた。 「わたしはお父さんのお店で働いている加賀美と言います。お父さんの代わりに凪くんを学校に迎えに行って……あの、凪くんが、熱を出して」  彼女の迫力に押されて、最後はしどろもどろになってしまった。彼女が凪の姉の「こころ」だろうか。凪とはずいぶん歳が離れている。撫子とほとんど変わらないように見える。 「だからって、何で家まで上がり込んでいるのよ」 「それは、凪くんがつらそうだったので」  彼女はベッドの近くまで歩いてきて、撫子を押しのけた。凪の顔をみて、おでこに手を当て、ホッと息をつくのが聞こえた。  それから机をチラリと見ると、撫子の顔を睨みつけた。 「それで?人んちの冷蔵庫漁って、おかゆこしらえたわけ?」  その言い方に、さすがの撫子も腹が立った。 「お腹すいているだろうと思って、作っただけです!お母さんも誰もいなくて、熱がある子がここに一人でいるなんて、可哀そうで、放っておけるわけないでしょ!」  そう叫ぶように言い返すと、彼女が手を振り上げたのが見えた。思わず身をすくめると、凪のかすれた声が聞こえた。 「こころ、やめて」  果たして、こころは手を振り上げたまま、止まった。  驚いたことに、彼女は泣いていた。盛大に鼻を啜ると、身を翻して、部屋を出て行った。
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