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撫子は呆然とこころを見送ると、凪を振り返った。
凪はのそのそと身体を起こしていた。
「おかゆ、作ってくれたの?食べたい」
責めるのでも詫びるのでもなく、凪は淡々とそう言った。
「ああ、うん」
撫子がおかゆを机からとって、凪に手渡すと、凪は一掬いし、食べた。
「おいしい?」なんて訊くことも出来ず、撫子は息を詰めて見守っていた。
それを察したのかは分からないが、凪は「熱があるせいか、味が分からないや」と呟いた。それでも、もうひと掬い口に運ぶ。
撫子は先ほどのショックがまだ抜けていなかった。いったい、わたしが何をして、初対面であんな敵意を向けられないといけないのだろうか。
「撫子さんが父のことを奪おうとしてるって、思ってるんだよ」
おかゆを口に運びながら、凪はぽつりと言った。
「え?」
撫子は何に衝撃を受けたか分からなかった。わたしが店長を奪う?それに…
「名前…」
わたしは「撫子」と名乗っただろうか。
「撫子さんの話は、父が家でよくするよ。可愛い弟子の話って感じだけど。でも、それすら、こころは気に入らないんだろうな」
店長が自分のことを話していた。撫子は、もう胸がいっぱいになって、何も言えなかった。尊敬する店長が、可愛い弟子と認めてくれた。しかも「撫子さん」と呼んでくれた。
「ごちそうさま」と言って、凪はお椀を撫子に手渡した。
「でも、こころの心配は、当たりだったな」
言われて、撫子は頭を殴られた気がした。
「わたし、そんなことしない!」
心の底から真剣に言った撫子の顔を、だが凪は一瞥しただけだった。
「じゃあ、なぜ僕を迎えに来たの?」
「だから、それは店長に頼まれて」
「父が?」
凪はクスッと笑った。とても小学生とは思えない態度に、撫子はたじろいだ。
「撫子さんが言い出したんじゃない?」
「それは……」
店長が店を空けるより、自分が行った方がいいと思ったからだ。
「僕のことを思えば、父が来てくれた方がよかった。だけど、撫子さんは」
凪が「撫子さん」と呼ぶたびに、言いようのない罪悪感を覚えるのは何故だろう。
「父を家族の許に返したくない、と思ったんじゃない?」
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