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「うわぁ! 出たぁ」
「怖いぞぉ」
「あっち、行けっ」
廊下を響く、男子たちの声。私はスカートの脇をぎゅっと握りしめた。
夏休み明けから毎日この調子だ。それもこれも、全てはあの映画のせいなんだ。
七月末から公開されたホラー映画。怖さマックスとの評判で、この夏一番のヒットを記録した。その記録は現在も更新中なのだとか。私はまだ観てないけれど、情報は自然と耳に入ってくる。イケメン主人公に想いを寄せる女性が、どうやら私と同じ名前らしい。
どこが問題かって? う~ん……それがね、彼女はヒロインの恋敵的存在で、しかも幽霊なんだって。叶わぬ恋に同情はされても、どうしたって邪魔者扱いよね。
幽霊っていっても、ファンタジーに出てくる可憐な女の子とか コメディに登場する愉快なのなら まだ良かった。そんな欠片もないバリバリの怖~いやつだから、マジでやばい。
一瞬でも彼女の姿を目にしようものなら。その晩は夢に出てきて うなされること間違いなし! そんな圧倒的存在感で、ヒロインよりも余ほど記憶に残るキャラクターとなったようだ。
「お前さ、一気に有名人じゃん! 良かったな」
幸太郎までがからかってくる。小さい時からの仲良しだって信じてたのに、この裏切り者っ。
「全然良くない! ってか、それ私じゃないし」
「まあまあ、そんな怒んなよ」
笑いながら嗜められても、気は収まらない。
「ゆ――」
つい出そうになった言葉を慌てて飲み込んだ。これ以上 からかわれては堪らない。
昔アニメに「うらめしなんて流行遅れ」と言った愉快なお化けキャラクターがいたそうだ。件の彼女も「うらめしや」とは口にしない。代わりに愉快さとは無縁の怨念の込もった声でこう唸るのだ。
「ゆ・る・さ・な・い~」
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