第一章

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 幽霊・ゆるさんは、人々から発せられる「ゆるさない」エネルギーが集まって生まれたといわれているが、その真偽は定かでない。  あ! 「ゆるさん」ってのは、仮の名前ね。私と同じ名前ってのも ちょっと呼びづらいから、ニックネームをつけさせてもらったわ。ゆるさないの頭2文字+敬称・さんで「ゆるさん」。「許さん!」って半分駄洒落っぽくなってるとこもお気に入りポイントよ。  え、私の名前が気になる? それは秘密だけど、少しだけネタバラしすると3文字で最後に「コ」がつくの。お母さんたちの世代ではそういうの多かったみたいね。今だって決して珍しくはない名前よ。  映画の主人公・ヒロは、証券会社に勤める23歳。人あたりが良くてルックスもいい彼は、上司から可愛がられ同期たちとも上手くやっている。素敵な彼女がいて、ゆくゆくは結婚を考えてるみたい。  順風満帆に見えるヒロにも、ずっと心に引き摺っているものがある。幼い頃からの友人・トシのことだ。十年前、当時中学生だったトシはクラスでのいじめを苦に自殺していて――  パンフレットに記載の情報はここまでだった。中学時代の回想シーンを中心にストーリーは進んでいくらしい。  私がからかわれる原因になった映画なんて許さない! 絶対に観てやるもんかっ!と心に決めていたのに。なんだかんだで気になって、とうとう映画館まで来てしまった。  貴重な休みの日に、少ないお小遣いをはたいてまで……ホントに許せないわっ。  ぼやきながらも、映画の半券とパンフレットを手にちょっとだけ楽しみにしている自分も許しがたい。 「間もなく上映が始まります」  アナウンスとともに暗くなった場内に、スクリーンの光が映し出された。
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