お持ち帰りはユルサナイ

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「──うわあ、雰囲気あるなあ……」  それは、思った以上に不気味なオーラを放っていました……。  ひび割れたアスファルトから雑草がぼうぼうに蔓延(はびこ)った敷地内、蔦が絡まり、カビで薄汚れた鉄筋コンクリートの巨大建造物が、夜の暗闇に黒々と(そび)え立っています。  たくさん並んだ窓という窓のガラスがバリバリに割れ、壁にはヤンキーの落書きと思われるスプレーで描いた絵や文字もあちこちに見受けられます。 「よ、よし。行こうぜ……」  懐中電灯を手に、その威容を見上げてしばし呆然としていると、Bがそう言って僕らは入口の方へと歩き出しました。  入口の自動ドアのガラスも粉々に砕けているため、中へは容易に侵入することができます。  懐中電灯のか細い光以外、明かりの何もない真っ暗な建物内に、僕らは吸い込まれるようにして入って行きました。  長年に渡り先客(・・)達がやったのでしょう……内部もやはりボロボロでした。  泥(まみ)れのリノリウムの床には、ガラスやら病院の備品やらが散乱し、壁には外同様にスプレーの落書きがあちこちになされています。  待合のソファも表面のビニールがビリビリに避け、中のスポンジやらスプリングやらが無残に飛び出しています。 「そうだ! 動画撮っとこうぜ」  エントランスをあちこち見回していると、思い出したかのようにBがそう言ってスマホを取り出し、僕らは心霊系某チューバーさながらに動画撮影をしながら、廃墟然とした病院内をおそるおそる進んで行きました。  奥まで光の届かない真っ暗な廊下に、いまだ消毒液の臭いが残る診察室、きっと何人かはその場で臨終を迎えたであろうベッドの並ぶ入院棟の病室、そして、わずかに線香の香りが鼻腔をかすめる、おそらくは霊安室であったであろう地下の窓のない部屋……どこもかしこも不気味さ満点で、始終僕らは背中のゾクゾクが止まりませんでした。  とはいえ、怖いことは怖いのですが、かと言ってなにか幽霊の類が出るなんてこともありません。  看護婦や車椅子の患者はおろか、黒い人影のようなものさえ見ることはありませんでした。
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