お持ち帰りはユルサナイ

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 時折、薄汚れた壁や床が懐中電灯の小さな明かりに照らし出される程度で、暗くほとんど何も見えない廃墟内を、わちゃわちゃ騒ぎながら歩いて行く僕ら四人……観ていても視界は悪いし、なんらおもしろくもない動画だなあと思っていたのですが……。  B自身が撮っていたので、そこには彼が処置室の引き出しを開け、偶然見つけた注射器をこっそりくすねる場面も映っていました。  が、その直後、他の部屋へと移動する僕らを追い、Bの持つスマホの画面も再び動き出した時のことです。  不意にどこからか…… 「ユルサナイ……」  という女性の声が聞こえたんです。 「…え? 今、何か聞こえたよな? 今んとこちょっと戻せ!」  全員、その声には気がつき、急いで数秒前まで戻すともう一度観てみます。 「ユルサナイ……」  やっぱり聞き間違えではありませんでした。  強い怒りの籠ったような女性の低い声が、はっきりとそこには入っています。その感じからして、場所的には撮影しているBのすぐ近くで言ってるのでしょうか? 「スゲエ! さっきは気づかなんだけどバッチリ録れてんじゃん!」  「これ、どう聞いても女の声だよな? 例の看護婦の霊かな? しかも〝ユルサナイ〟とか怖いこと言ってるぜ!?」  現地ではまったくわかりませんでしたが、実はしっかりと起きていた明らかな怪異に、僕らは怖がるというよりも、むしろ嬉々として大いに盛り上がりました。 「これはもう動画UPしてバズらせるしかないっしょ!」  当然、自分達だけで盛り上がるのではなく、誰かに見せびらかしたい心境になると、その部分だけを切り抜いて、Bが早々に某SNSへUPしようとし始めます。
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