剣と魔法と魔法使いの罪

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 ワインのような、あるいは黒くなった血糊のような。そんな深い赤色の服に身を包んだ一人の男が、石畳の大通りを走り抜ける。商店が軒を連ねる大通りは人出が多く、彼に気づいた人々は、大小それぞれの驚きを浮かべて道を譲った。  赤い軍服の意味を知らない人間はこの王都にはいない。王国の5人の騎士――この国の王に武芸と精神を認められた、選ばれし5名の者。その騎士の象徴だった。  全身に視線を浴びながら、彼、ゼントは涼しい昼間の街を走った。まだ20代半ばの若者で、明るい色の短髪が少しフワッとしているゼントは、いつになく険のある顔をしていた。  焦っているのかも知れないが、胸を占めるこの感情はきっと怒りだ。王国を第一に考える自分にとって、心の深い部分が揺さ振られる怒り。  やがて、ゼントは目的地に辿(たど)り着いた。建物が集まる市街地から離れたこの場所には、古い石壁がひっそりとそびえている。今は役目を終えた旧時代の城壁で、緩くカーブしたそれは、大貴族の屋敷の一方向を守れる程度の長さしか残っていない。それも、長年の雨風によって表面はザラザラで、積まれた石には崩れているところもあった。  この国の歴史から取り残された、もの寂しい風景。  ゼントは(まば)らに生えた雑草を踏み締めて、城壁の上の、歩くことができる部分に順々に目を凝らした。基本的に平らだが、ところどころ小さな壁が立っている。防衛時に兵士が隠れるためのものだろう。  その壁に寄りかかり、城壁の上でくつろいでいる人影がある。よくここにいると聞いた通りだ。  
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