0人が本棚に入れています
本棚に追加
手が止まった。
そんなものは決まっている。目撃情報だってある。ゼントは確信を持って口を開こうとして、ふと、小さな違和感を覚えた。その正体をつかみかけた時、頭に鋭い痛みが走った。手から滑り落ちた太陽の剣が、カラランと涼しい音を立てる。
「大丈夫ですか?」
「……方法なんてどうでもいい。お前が大罪を犯したという事実は変わらないんだからな」
危うく相手のペースに乗せられるところだった。計画の内容はここでは枝葉だ。
ゼントは静かに剣を拾い上げ、またいつ砂に埋もれるか分からないリューゲルを両目でしっかりと見据えた。騎士にとって、国王や国は絶対。どんな事情があろうと、王に仇なす者は許さない。
太陽が出ないならば純粋に剣で攻めればいいし、奥の手もある。ゼントは姿勢を低くして突っ込んだ。足場が悪い場所でも構わず攻撃を繰り出す。
強い風を起こすのに疲れたのか、リューゲルはトン、トンと古い石壁に沿って跳ねるように後退していく。
「全く、困ったものですね。そろそろ休憩にしませんか?」
ゼントは無視した。フ、とリューゲルはあまり困ってなさそうに笑い、宙を飛んだ。ゼントの頭上を飛び越え、クルリと一回転して反対側に着地する。
「貴方を説得する魔法の言葉、何かないんですか?」
「俺がお前を許すことはない。他国の人間との密談も目撃されているんだ。諦めろ」
これでは追いかけっこと変わらない。剣の切っ先を大地につけ、ゼントは両手を柄の上に重ね合わせた。やるしかない。太陽の代わりに己の生命力を剣に注ぎ込んで、どんな敵をも倒すあの大技を使う。
「ちなみに、その私を目撃した人って、あそこにいる人ですか?」
適当なことを言って隙を作るつもりだろうかと思いながら、一瞬だけ示された方向に目をやった。誰かいる。もう一度、ゼントは城壁の上を見た。慌てた様子で四角い壁の陰に引っ込んだ男は、あごを縁取るようにひげを生やした、見覚えのある顔だった。
確かに、今回の件でゼントに何度も情報を提供してくれた男だ。成り行きが気になって見に来たのだろうか。
視線を戻した時、リューゲルの左右の腕が大きく動くのが分かった。
「ゼント殿、悪く思わないでくださいね」
頭の中で何かが破裂して、ゼントは気を失った。
最初のコメントを投稿しよう!