剣と魔法と魔法使いの罪

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 ***  崩れ落ちる騎士の体を両手で支えて寝かせると、リューゲルは遠くの空気を操った。ポーンと、先ほどの不審者が城壁から放り出される。落下に(あらが)う素振りがあったので、ついでに風で上下に何度も揺さ振ってやった。 「さてと」  リューゲルが指を止める。男は目の前でドタンと地面に尻をついた。 「(のぞ)き見は不問にするとして。騎士殿を魔法で洗脳したのは貴方(あなた)で合ってますか?」  あごひげの魔法使い――ちなみに知らない男だ――が、凍りついた表情でこちらを見上げた。 「ああ、別に貴方に危害を加えるつもりはありませんよ? ゼント殿が貴方を許すかどうかは別の話ですが」 「どうして分かった?」 「分かりやすかったからです」  リューゲルが言うと、男の顔に陰鬱な影が差した。  ゼントは5人の騎士の中でも忠義の心が強いことで知られているが、今日は初めから行き過ぎていた。まるで、冷静に考えるのを放棄してしまったかのように。彼の瞳に薄らと他人のエネルギーが過ぎって、リューゲルは悟ったのだ。  これは、自分を破滅させるためにどこかの魔法使いが仕掛けた、単純な妨害工作だ――。  王族に寵愛されているように見えるのか、人より魔法が得意なせいか、ときどきそういう人間に出会うことがある。昔は気にしていたがもう慣れてしまった。ゼントを選んだのは、彼の忠誠心を利用すれば術が容易だったからだろう。そして無論、強かったから。もしかするとこの男は、騎士であるゼントのことも妬ましく思っていて、一石二鳥を目論(もくろ)んだのかも知れない。 「リューゲル……お前、いつでも彼を止められたんだろ? 全部気づいてたんなら、なぜもっと早くこうしなかったんだ?」  男の疲れ切った声色に、リューゲルはニヤリと微笑んだ。 「こんな機会はまずないですからね」  王と王国のことしか頭にない彼が、自分を見てくれるなんて機会は。この程度の打算は許してほしい。  リューゲルは天に向かって小さく手を振った。羊のような雲がだんだんと移動していき、まぶしい太陽が殺風景な大地を明るく照らした。  
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