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過去の世界
ロロとチャコレは森の中を進んでいく。
「……なぁ、チャコレ。その泉へはまだつかないの?結構歩いたと思うんだけど。」
「……ど、どれくらい歩けば、泉に着くか、じ、実は、わかんないんだ。まだ、案内のフクロウが来ないから……。案内フクロウが来るまでは、進まなきゃ…。」
「は、はぁ?!どういうことだよ!それ!」
森を抜ければ泉があるんじゃないのかよ!
「……か、簡単には、泉へ行けないよ。泉までどれくらいかかるかは、案内フクロウの気分次第…かな……。」
フクロウの森は、入る事も容易く、特に危険のない森である。しかし、森を抜けた先にある願いを叶える妖精の泉へ行くには、森に住むフクロウの案内が必要となる。案内フクロウがいつ現れるのか、それは誰にも分からない。泉へ導くかどうかさえも、フクロウ達の気分次第。フクロウ達に願いを叶えさせる気がなければ、彼らはさっさと森を進む者達を入り口へと返してしまう。森を追い出された者が泉へ案内してもらえることは決してない。一度森から返されたものは、泉で願いを叶えてもらうことは諦めるしかないのだ。ら
しかも、泉へ行って、願いを叶えた者は誰もいない。フクロウの森は、そんなふうに言われる森だ。
「そ、そんな…。ほ、ほんとかよ、チャコレ……。願いを叶えられた者はいないって……。」
「……ご、ごめん……。」
そんな森だなんて知らなかった。
呆然としたまま、ロロはチャコレに恐る恐る尋ねた。
「……なぁ、チャコレ。チャコレは、どれくらい森を進んでるんだ…?」
「……一週間、とちょっとくらい、かな…たぶん。」
「一週間?!嘘だろ?!…そ、そんなに…メシとかどうしてんだよ!?どうやって生きてんだ?!」
「た、たべられる果物とか野菜とか…森にたくさんあるし。川も、きれいな水が流れてるから、そこでお魚とったりも、できるし。」
「……。」
「ひ、火を、起こすくらいは、魔法で…できるから…そんなにこまらな「魔法っ?!?!」」
ロロは驚いた。魔法?チャコレは今、魔法で火を起こすと言ったか?魔法を使える人間なんて大昔の話だ。
固まったロロに対してチャコレが言った。
「そ、そんなに驚かなくても。魔法なんて、世界中誰でも使ってるよ?」
「……そ、そんなわけあるか!人間が魔法を使えた時代なんて……どんだけ昔の話だと思ってんだ!」
時が経つにつれて、人々が使える魔法はだんだんと減っていき、魔法が使える者の数も減っていった。やがて魔法を使える人間はいなくなり、代わりに科学が発展していった。ロロが学校で習ったのは、そんな話であったはずだ。
「……ちょ、み、見せてくれ。ま、魔法で、火起こし……。」
「いいけど………………はい。」
チャコレは、人差し指をロロの前まで持っていくと、その指先に、ふっと小さな炎を灯して見せた。ロロは開いた口が塞がらない。
「……………………うそ、だろ……。」
( どういうことだ?魔法を使える人はもういないんじゃなかったのか?魔法なんて、大昔の話で………………。『 大昔』…?)
思いついたことに、ロロは震えた。
そう。妖精も、魔法も、大昔の話なんだ。1000年以上も前の、話なのだ。
「……な、なぁ。聞いても、いいか?」
「え?な、なに?大丈夫?ロロ。」
「──中央の大陸に、大きな樹はあるか…?」
「中央のって、『 暗闇の大陸』のこと…?あそこは、もう枯れてしまった土地で…樹、どころか植物の一つも育たないって言われてるよ…?」
「……。」
ロロの住むグレイの都がある『 希望の大陸』には、中央に大陸のシンボルとなる「大樹」がそびえ立っている。今でこそ自然と人々が共に生活する、発展した大陸ではあるが、かつては荒れ果てた大地であり、『 暗闇の大陸』と呼ばれていた。
しかし、それも1200年前も昔の話。
(…………そんな、じゃあ、ここは……。)
「……おれは、過去にいる……ってこと…?」
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