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続・その後
工藤涼介は今日もホワイトバカラのカウンターに座っていた。
「お待たせいたしました。ジントニックです」
いつもなら『ありがとう』と言う工藤が今日は何やら浮かない顔をしていた。その癖彼の目は何かを訴えたがっている。
バーテンダーの片桐は何か言いたそうな工藤を促す事にした。
「工藤さんにしては珍しく元気がないようですが、何かありましたか?」
工藤は待っていましたとばかりに顔を上げるとこう宣った。
「聞いてくださいよー、片桐さん」
片桐はまたかと思ったが表情には一切出さずに話を聞いた。
「実は……、この前星さんの話を聞いて俺も玉砕覚悟で彼女に連絡しようかと思ってて……砕けるのはやだけど……」
彼の話は意外なものだった。
いつも女の子を取っ替え引っ替えしている感じの工藤にはやはり片想いの相手がいた。
意外なのはその相手だった。
子供の頃から気心の知れた親友のお姉さん。2歳年上の彼女はいつでも工藤のことも弟のように可愛がってくれていたという。
彼女と親友は2人とも優秀で地域でも名の知れた名門校に通っていた。
工藤は本当は彼女を追いかけてその学校に入ったのだが、表向きは親友が1人では可哀想だから同じ学校に行った事にしていた。
彼の気持ちを唯一知るのは彼の親友だけで肝心の姉の方は全く気づいていない、と工藤は思っている。
彼曰く、彼女は才色兼備。
片桐は本当の話を知りたくなって工藤にこう提案した。
「工藤さん、そのご友人はお酒を嗜まれるのでしょうか」
「うん、もちろん。あいつも俺と同じくらい飲むよ」
「でしたら、ぜひお勧めしたいカクテルがあるので一度こちらにお越しいただけないでしょうか」
「いいよ、じゃあ今週末にでも連れてくるからよろしく」
「ありがとうございます。お二人に私の特別をお作りしますね」
「……特別が俺だけにじゃないのがちょっと悔しい気がするけど……よろしくね」
「かしこまりました」
こうして片桐は、口だけは達者な工藤を行動に移させるべく、まずその親友の話を聞く事にした。
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