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バー ホワイトバカラ
男が1人、バーボンをロックで飲んでいた。それもやたら速いピッチで。
そんな男ばいる場所。そこはバー ホワイトバカラ。
その姿をバーテンダーは心の中でため息をこぼしながら見ていると新しい客がやって来た。
その客は常連客で名前は星 貴也。50代には見えないイケおじだった。
「フォアローゼスのブラックをロックで」
「かしこまりました」
バーテンは素早く飲み物を用意すると星の前に置いた。
「お待たせいたしました」
「いやいや、全然待たせされていないよ。ところで彼はどうしたの?」
椅子ひとつ挟んで右側に項垂れながら座る男を見つけてバーテンに聞いてみた。はずだったがその男がバッと左を向いたかと思うと急に情けない声を出した。
「星さん、聞いてくださいよー」
それだけ言ったかと思うとすぐカウンターに顔を突っ伏してしまった。
その言葉にバーテンダーと星は顔を見合わせた。
「工藤君、何かあったの? またいつもの?」
星の問いかけに不貞腐れたように工藤が答える。
「またってことないじゃないですかー……。まぁそうなんですけど……。それよりどうしたら1人の人と長く付き合えるんですかねー。星さん教えてくださいよー」
男の名前は工藤涼介。身長180cm、顔はスッキリ系でやたら整っている。細身に見えるが細マッチョと言われる体型。外見だけならかなりカッコイイ部類に入る彼。そのおかげでこれまで女に不自由したことはない、らしい。ある意味女の敵なだけではなく、一部の男の敵でもある。
そんな彼は何故か1人の女性と長く付き合えないと言う。
来る者拒まず去る者追わずの典型でありながらいつか本物が現れることを信じている。どこかの夢見る乙女でもないのに。
星は定期的にあるこの年中行事のような出来事に溜息をこぼしながら工藤を見た。
「工藤君は付き合ってる女の子のこと好きになってる? それとも実は本当に好きな人は他にいるとか」
「…………それ、今関係ありますか?」
「あるから聞いてるんだけど、どうなの?」
「……付き合ってきた彼女たちのことは可愛いとは思うけど友達の延長みたいで……。どうしても1人の女性としてみることはできなくて……」
「やっぱり……。本命は他にいるんでしょ」
「……そうですね……」
「じゃあさ、その子のこと追いかけた方がいいんじゃないの? 群がってくる女の子たちで紛らわしてないで。本命の彼女が誰かのものになったら諦められるの?」
「……誰かのものになるだなんて、考えたくもないです……」
星貴也は工藤涼介のことを憐れむような目で見た。
「俺も人のこと言えないけど、いつまでも勝手にヘタレてると自分の知らないところで思いも寄らない災難が降りかかったりするんだ。ちょっと俺の昔話しをしてもいいかな」
工藤は驚いてスッとその整った顔を上げた。
「ぜひ、お願いします」
少し遠い目をした星貴也は苦笑を浮かべて話し出した。
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