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クリスマスも近づいて来た頃、ヘタれな星は星名公佳を誘うことも出来ずにいつもの仲間とスキーに行くことになっていた。
メンバーは星の他には悪友であり親友の村上圭吾とその彼女、そしてその友人の川尻千春の4人。気を使わなくて済むメンバーで行くスキーに行くのは楽しい反面、心の片隅では星名公佳を誘いたい自分がいた。しかし断られることを恐れて誘うことすらしていない。
いつも馬鹿なことばかり言って笑わせているだけでは恋など進展するはずがないのは分かっている。しかし星は今の緩い関係を壊すのが怖くて一歩踏み出すことができなかった。
スキーから帰ってきて新学期になってから星は星名公佳の態度がやけによそよそしい気がした。これまで通りに言葉を交わすのに何故かどこかある1点を見てからすぐに理由をつけてはその場を離れてしまうようになったのだ。
そんなことが続いていたある日、星名の友人の霧崎舞香から声を掛けられた。
彼女には星の日頃の行動から、彼が星名を好きな事がバレている。少しお節介な彼女は星と星名をくっ付けようと密かに企んでいた。
「もうすぐバレンタインでしょ。キミちゃんに星君がチョコ貰えるの楽しみにしてるって伝えておいたよー」
星は小声で呟いた。
「……嬉しいけど、嬉しくないな……」
「えっ何? 私に感謝しなさいよ」
彼女のお節介はこれまで星を何度も助けてくれた。
そう思っていたバレンタイン当日。
しかし星は彼女からチョコレートを貰うことは出来なかった。
翌日、流石に星名本人に文句も言えるはずもなく、星は霧崎に文句を言いに行った。
星は教室にいる霧崎を見つけると空き教室に彼女を引っ張っていった。
「どういうことだよ、星キミからチョコ貰えなかったぞ」
星自身は何もしてないくせに大した言い掛かりである。
「……それなんだけど、問い詰めたらキミちゃんなんか変なこと言ってたんだよね」
「変なことってなんだよ」
「千春ちゃん、川尻千春さんと約束したとか何とかって……。それ以上は何も話してくれないんだけど、何か心当たりない?」
星はこの前スキーに行った時のことを思い出した。
スキー場以外でも何故か川尻はやたらと星と2人きりになりたがっていた。目が潤んでいたのはスキー場の光の照り返しが眩しいからだと思っていたが、そうではなかったのだと今分かった。
だからやたらとベタベタ触って来たのも彼女なりの必死の訴えだったのだろう、と。
「自惚れではなく、川尻は俺のこと好きなんだと思う。全く嬉しくないどな」
「やっぱり……。きっと川尻さんはキミちゃんにあまり近づかないように言ったんだと思うんだ。星君、いつまでもヘタれてるとキミちゃん他の男に取られちゃうよ。いいの!」
「いいわけ無いだろ。……そんなの分かってるよ」
「だったらいつまでも人に頼ってないで自分でモノにしなさいよ。キミちゃんだって満更でもなかったんだから。キミちゃんに近づく男を威嚇してる暇があったら彼女を落とすことに時間を割きなさいよ」
「はい、ごもっともです……」
それからの星の行動は早かった。あの頃はまだスマホどころか携帯電話なんてものは存在していなかったので家に電話をかける以外、本人と連絡を取る手段がなかった。
だから何としても卒業するまでに彼女に自分を1人の男として意識してもらえるようにする必要があった。
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