5人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
由奈〜yuna〜✖️〜kosi〜香史
世間では私達の関係を不倫という簡単な名称で呼ぶのだろう。
アプリで繋がった男と何人か会ったがその中で関係が続いているのは香史だけだ。
男遊びに走ったのはほとんど夫へのあてつけだった。
実業家の夫とは五年前に、テレビ番組の打ち上げで知り合ってすぐに結婚した。結婚を機に鳴かず飛ばずだったモデルの仕事を辞めた。
夫は事業の発表や、パーティには必ず私を同席させた。周りから見れば仲睦まじい夫婦に見えた事だろう。実際は夫が家に帰ってくる事などほとんどなかったし、一緒に暮らしたと言えるのは最初の一ヶ月程度だったように思う。
夫は私に、というより女に興味がなかった。私はマスコット代わりにさせられたのだ。
それでも私は自分を不幸だとは思わなかった。
私が欲しいものを夫は何不自由なく与えてくれた。時計にバッグ、高級外車。二人で住む家とは別に、私一人で住む用のマンション。ありとあらゆるもの全てを与えてくれる。ないのは愛情だけ。
夫からもらえないなら他からもらえばいいだけだ。
そんな風に頭では思うのに、満たされない気持ちは増していくばかりだった。
それでも香史だけは他の男とは違った。彼といる時だけは夫の事を考えずに済んだ。
世間に関係を悟られないように、香史と会う時はいつも私のマンションだった。思えば、夫はこうなる事をわかっていて私にマンションを与えたのだろう。夫さえ口裏を合わせれば、たとえ世間に知られようともいくらでも誤魔化しがきく。不倫というマイナスイメージを付けないための夫なりの戦略の一つなのだろう。
夫公認の不貞は果たして世間が言う不倫に当たるのだろうか。
そんな事を思いながら、今日も香史が部屋に来るのを待っていた。
三十歳を目前にして、このままでいいのだろうかとかいう突拍子も無い考えが頭を掠めた。
香史は私よりも少し歳下で、夫にはない可愛げがあった。夫と比べると経済力も大人の余裕みたいなものも何一つ持ち合わせてはいなかったが、何より私を愛してくれている。それだけで心は満たされた。
ただ、夫を捨て香史と二人で愛に走るだけの若さはない。不幸ではないが幸せでもない。そんな現状がもどかしかった。
最初のコメントを投稿しよう!