弥子〜yako〜✖️〜shoya〜翔也

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弥子〜yako〜✖️〜shoya〜翔也

 初めての経験だったからか、これが【ナンパ】だと気が付いたのは喫茶店でテーブルを挟み、「また会ってもらえますか?」と男が充電器からスマホを取り外しその手にした時だった。  二十代後半に差し掛かって交際経験のないわたしは、そんな気配を微塵も感じることなく訊かれた場所までの道筋を案内した。  充電がなく地図アプリが開けないと言われればそれを信じたし、近くまで案内してもらえないかという願いにも親切心から応えた。  お礼にコーヒーをご馳走したい、という提案には遠慮したものの強く推されると断りきれなかった。  そしてわたしは気が付けば、会ったばかりの彼と連絡先を交換していた。  彼は翔也と名乗った。  三回目には翔也と初めての夜を交わした。初めてのキスは苦手なビールの味がした。  重ねていくにつれて匂いは気にならなくなった。顔が熱くなって、身体がふわふわと浮いているみたいに心地よくて、一つになった瞬間は想像していたより痛くはなかった。気持ちいいということもなかったけれど。  それよりも、優しかった翔也の顔が動くたびにだんだんと歪んでいくのが何故か嬉しかった。  行為を終えて、彼はわたしの横に仰向けに倒れ込んだ。  隣で息を整えるように、細かく吸ったり吐いたりを繰り返している。  横目で翔也を見ると、また優しい顔に戻っていた。彼の広げた腕に頭を乗せる。  彼の腕はゴツゴツとしていて、枕としてはあまり良くはなかったけれど、それでもずっとこうしていたいと思えるほどの安心感があった。  翔也からの連絡は一方的だった。  いつ連絡がきてもいいように終電の時間までは化粧を落とさなかったし、興味のなかったネイルにも気を遣うようになった。  新しい服も下着も買って、翔也の好みをそれとなく聞き出しては、少しづつ近付けていった。  けれど、顔だけはどうしようもなかった。いくら化粧を勉強してそれらしくしてみても、翔也の好みとは違った。 「見た目じゃなくて、弥子の優しい人柄が好きなんだよ」  翔也にそう言われても慰めにしか聞こえなかった。  その証拠に会う頻度は日に日に減っていった。
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