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俺は悪魔。
俺は、人間の些細な負の感情を読み取り、その負の感情を増幅させせてやること、それが俺の楽しみなのさ。
『許さない。許す。やっぱり、許さない。いや、許す』
あそこに、心が揺れている女がいた。早速、俺が女の感情を操ってやる。
俺は女の記憶を盗み見る。そして何に思い煩っているのか調べてみた。
ふむふむ。どうやら彼氏にフラれたらしい。その彼氏を許すか、許さないかで悩んでいるみたいだ。俺が耳元で囁いて、悪いほうに導いてやるぜ。
「フッた相手なんて許す必要はない。相手が悪い。一生、恨め」
『許さない』
俺が耳元で囁けば、人間なんてチョロいもんだぜ。
「ちょっと待って」
突然、澄んだ声が響き渡る。俺は、声のした方向を見た。女のそばに天使が現れていた。
「一度は好きになった相手だよ、恨むなんて止めようよ。許してあげて」と天使が言う。
『許す』
くそっ。折角、人間をそそのかせるとと思ったのに、天使の邪魔が入ったぜ。
ここからは俺と天使、どちらかがこの女を説得するかの戦いだ。
まずは俺から攻めるぜ。
「三年も付き合っていたのにフルなんて、ひどい男だぜ」
『許さない』
「でも最後のほうは、付き合っていてもギクシャクしてたよね。お互いに我慢してたんだよ。もう彼のことも許してあげな」
『許す』
「我慢していたのは、お前だけだろ。男に振り回されてばっかりだったじゃん」
『許さない』
「でも、あなたも束縛しすぎだったんじゃない?彼も苦しんでいたよ。だから、お互い様だよ」
『許す』
天使の反撃が激しくなった。
「憎んだって時間の無駄でしょ。それより先に進みましょう。新しい恋が見つかったら、私が祝福してあげるから」
『うん、許す』
「おい、お前より先に男のほうが新しい彼女を作るかもだぞ。お前はまだ辛いのに男は幸せで、それでもお前は許せるのか?」
『やっぱ、許さない』
「彼に彼女ができようができまいが、あなたの幸せとは関係ないのよ。もう彼のことは忘れなさい。そして忘れるには許しなさい」
『許す』
「理屈で分かっていても、男を忘れることはできないだろ?それが好きってことだ。そんなに好きだったお前をフッた男を簡単に許せるのか?」
『許さない』
「忘れるために許しなさい」
「忘れられないから恨んでやれ」
「許しなさい」
「許すな」
天使と俺が言い合いの応酬が続いた。
俺はとっておきのことを女に告げること決意した。女を俺のほうに持ってくる最後の手段だ。
「おい女、天使には何の能力もない。ただ人間に良いことがあると祝福するだけの存在だ。だが俺たち悪魔は違う。俺たちには復讐を手伝う能力がある。お前が願えば、俺はお前の復讐を手伝うつまりだぞ」
「やめなさい。悪魔の言うことに耳を傾けないで」
「さあ、最後の決断だ。許す、許さない。どっちだ?」
女はしばらく無言になって考えていた。
俺と天使もしばらく黙って見守った。
『許さない』
女の答えは決まった。
「天使、お前には何の能力もないんだよ。とっとと消えな」
俺は天使を追い払った。
「おい女、約束だ。お前の復讐の手伝いをしてやろう。男にどういう復讐がしたい?言ってみろ」
『今より幸せになって元彼を見返したい』
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人生は短いから
不幸になってる暇なんてないのよ。
ターシャ・テューダー(米:絵本画家,挿絵画家)
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