エピローグ

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「退院したら東京へ行ってこようと思う。電話で話すだけじゃなく、みんなにも会いたいしお礼も言いたい」 「そう急がなくてもいいだろう。その時は俺もいっしょに行くから。みんなは君の身体の事を気にかけてる。夏が元気だったらそれだけで嬉しいと思うよ」 海斗さんは「周囲を幸せにしたいと思ったら、まずは自分が幸せに生きること」と夏に言ってくれた。 こんな素敵な人と結婚している事が私の幸せだ。 「私はとても幸せだからその様子を報告したい」 夏は、今までのこともあり心配しすぎて、少し過保護気味になっている彼の説得を試みた。 「……そうだな。少し長い休みを取ってゆっくりしてもいいかもな」 苦笑いして、海斗は東京行きを許可してくれた。 退院できても部屋の中で引きこもり状態になるのは辛いと思っていた。こんな事件があった後なので、家に帰っても、外出しないよう言われそうだったので夏はとても嬉しかった。 夏の傷は軽傷だったので、入院する必要がない程度の物だったのだが、今までの記憶障害の事もあり検査をするために随分長く病院にお世話になっていた。 そして、検査の結果異常は見当たらず、いつ退院してもいいと医者から今朝伝えられたのだ。 「俺は東京へ行ったら川端さんに是非お会いして、媚薬の効果、使ってみた感想を報告しようと思うから」 冗談言わないでよと、拗ねた顔で海斗を睨んだ。 まだ川端さんはバーの常連として飲みに来てくれているんだろうか?すべてを懐かしく思い出す。 夏は思い出せる記憶がある事のすばらしさを噛み締めた。 少し感慨にふけっていたように見えたのか、海斗が夏の手を握ってくれた。 椅子をベッドの傍に寄せて大丈夫?と尋ねる。 夏は笑顔を見せて。 「あの媚薬は相当怪しかったけど、媚薬がなかったら今頃どうなっていたのか、まだ学生のふりをしてバーテンのアルバイトをしていたかもしれないと思うと少し複雑」 「……そうだな、媚薬がなかったら君と急接近していなかっただろう。あの媚薬が始まりだったな」 惚れ薬説を言い出した海斗を思い出して夏はくすくす笑った。 あの時はシェークスピアの話まで出してきたことを考えると、彼は本当に私のために必死になって頑張ってくれてたんだと愛しさが込み上げてくる。 シェークスピアの「夏の夜の夢」媚薬を使って登場人物を翻弄する妖精『パック』。あの時、お店に媚薬を持ち込んだのは川端さんだった。媚薬をお酒に混入した記憶は曖昧で、どうしてお酒に入ったのかが夏には分からない。 なんだか夢のような出来事だったと思う。 書籍でしか読んだことはないが、今度機会があったら是非、公演を観劇したいと思った。 シェークスピアの物語の中では、キューピッドの矢の魔法から生まれたこの媚薬は、目を覚まして最初に見たものに恋してしまう。 そんな不思議な作用の薬が本当にあるのなら、皆さん使ってみたいと思いませんか?          完
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