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エピローグ
「警察署の中に入ると一直線で受付まで走る。その後を凄い勢いでタクシー運転手が追いかけてきたかと思うと俺の足にタックルした。
『いや、ちょっと待て!なに?』
そこへ警官数名が走り寄ってくる。俺はバランスを崩してそのまま倒れ込む。
『無賃乗車あぁぁああ!』
運転手は俺の足にしがみ付く。
『あぁ?いや、今それどころじゃないし、ちょっと待って』
運転手を半分蹴りながらポケットから財布を出した。
財布ごと運転手に投げる。
『これもう、いくらでも持ってって!』
なに事かとフロアー中が大騒ぎになった。警察官が俺を取り押さえる。いや待て、それどころじゃないから」
「とまぁ、そういう感じで取り押さえられた俺は、逮捕されそうになったわけだが」
病院のベッドの上で必死に笑いをこらえる夏。
「なんか想像すると吉本新喜劇みたい」
堪えきれずに笑いだした私を見ると、海斗は即座にモニターに目をやり心拍を確認した。
「一刻を争う状態でも、代金はちゃんと払うべきだという事が分かった」
安心した様子で海斗は自分が持ってきたお見舞いのリンゴを丸かじりした。
室内用防犯カメラの映像が証拠となり、木下さんは逮捕された。夏は奇蹟的に軽傷で済んで、頭に外傷を負った事が幸いにも功を奏し、今まで忘れていた記憶を取り戻したのだった。
まさに塞翁が馬、それにしては命がけの出来事だったが、結果的に、夏は記憶障害がなくなった。
海斗さんと出会う前の記憶のみを繰り返す現象は、木下さんと夫との不倫を認めたくない念いが、彼との出会い全ての記憶を脳が排除した為に起こったものではないかと結論付けられた。
海斗さんは今まで一度も木下さんと恋愛関係にあったことはなく、一方的な彼女の想いが強く表れた結果犯罪が起きた。
まるで夫と深い関係であるかのような証拠を捏造して、彼女はわざと夏を疑心暗鬼に追い込んだらしい。
病院のベッドで一ヶ月の間、木下さんの事を考えた。もう終わったこととはいえ、許そうとは思えないが、暗い気持ちになるのはもうたくさんだ。
私は前に進まなければならない。過去にとらわれず未来をみよう。そう決めると気持ちが楽になった。
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