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「ストーカー?」
「いえ、具体的には盗聴です。自宅で盗聴器を見つけはったそうで」
交番勤務の巡査、たしか前田と云ったか、の返答に、鷹司は思わす「あぁ?」と聞き返した。
「自分で見つけた、いうんか」
「はい、そうです」
いやだからその情報量ゼロの返答はやめろ、と思いながら、鷹司は聴取室に向かおうとして、
「あっ、係長、違います、応接室のほうで」
「ああ……相談扱いか」
ただの『相談』であればそうだろう。
しかしストーカー案件かどうかに関わらず、はっきりと盗聴であるなら、先ず疑われるのは住居不法侵入である。ストーカー規制法に抵触するかどうかは状況によるが、少なくとも相談では収まらず事件になる。ただし、身内が仕掛けたものでなければ、だ。
技術革新と情報化が進み、世の中に『市販の盗聴器』があふれかえった結果、配偶者等、パートナーの不貞の証拠を集めるために自宅に盗聴器を仕掛ける、ということも往々にしてある。
それを思い出したのであろう前田巡査も、ああ、と首を傾げながら言う。
「でもひがい……相談者は独身で、現在はひとり暮らしやいうことですが」
「仕掛けたんが恋人、婚約者、両親、いう場合もあるやろ」
世知辛い世の中だ。その実、圧倒的に多いのは身内のはん……所業である(不法侵入する度胸がある、もしくは無謀な人間は案外少ないのだ、ありがたいことに)。
「女のひとり暮らしなら」
と鷹司が言いさしたところで、
「あ、いえ、男性です、相談者のかた」
「はあ?」
それは珍しい。
勿論、男性の被害者は皆無ではないが、盗聴といえば圧倒的に被害者には女性が多い。思い込みは自分の失点だが、そんな重要事項を最初に言わない前田巡査にも少し苛立った。
「まあええ、とりあえず本人に、」
と言いながら、鷹司は応接室のドアを開けた。
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