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そして直ぐ閉めた。
「……これは、ストーカー案件一択やろ」
他にあるわけがない。
相談者の顔を一瞥するなり、鷹司は即断した。壁に寄り掛かり軋む眉間に指をあて、なんとか声を絞り出す。
「あんなん、近所の駅で一回すれ違っても、後をつけるヤツかて出るわ」
「イケメンさんですよねえ」
イケメンどころか、そうそう見ない程度の美形だ。これならストーキングする女や、男もいたところでなんの不思議もない。ストーカー規制法はたしか、とマメにある署内の研修でさらった情報を呼び起こしながら、鷹司は深呼吸を一つ。
改めてドアを開けた。
「失礼しました、生活安全課の鷹司です」
会釈してIDカードをかざす。
「お世話になります」
と軽く会釈する相談者は、山科と名乗った。天下のK大で教員をしているという。
(正確に云うと違うらしいが、鷹司にはあまり違いはよく解らない。非正規雇用だということは解った。)
この顔でK大のセンセイね……と、舌打ちでもしたい気分だったが、それはただの八つ当たりだった。
気を取り直して、鷹司はひとまず書類に記入されている内容と実際の状況を確認する。警察は何度も同じことを聴く、と言われるが、事実誤認が一番大きなミスに繋がるので手は抜かない。
「改めて確認ですが、こちらは一軒家ですよね。おひとりで?」
「はい、友人が相続した空き家を借りています。管理人を兼ねて」
ああ、と鷹司と隣の前田巡査まで頷く。30そこそこのひとり暮らしの男性(しかも研究者)に一軒家は違和感があるが、なるほどという事情ではある。
しかしそうなると、
「ということは、SECO……セキュリティなどは特に掛けていない?」
「そうですね、普段は私だけですし、そもそも大学に居る時間が大半なので」
聞けば、朝8時から夜8時、どころか帰宅が夜半になることも多いという。当然、防犯カメラなどもあるわけがなく、これはまずこの青年の周辺から洗い出すことになるかと鷹司は内心、溜息を吐いた。
正確な標準語をすらすら話す美貌の物理学者に、プライベートの穴は幾つあるか。
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