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「仕掛けられたのはいつ頃か、おわかりですか?」
「直近であれば先日、出張で一週間ほど留守にしましたので、その間ではないかと」
「ほう」
とはいえ、施錠していたのでは? と当然の疑問の回答は直ぐあった。
「帰宅したら、庭に面した掃き出し窓が開いてました。まだ気候も安定している時期ですし、雨戸も面倒で。ただその時は、閉め忘れただけと思っていたのですが」
不用心な、と当然思うが、男性のひとり暮らしだとそれほど気にはしないのかもしれない。それにしても、と眉根を寄せる鷹司に、山科はそれ以上前からだった場合はわからないが、と断りながら続ける。
「そんなに前から仕掛けたところで意味がありませんので。場所はリビングとキッチンと玄関ですから、それほど時間はかからないと思います」
「は?」
「私が見つけたのは全部で三つです。他にも有るかも知れませんが」
「みっつも!!」
と、隣から前田巡査のほとんど叫び声が聞こえたが、まったく同感で注意する気にもならなかった。
「よく……発見されましたね」
「はあ。最初に気付いたときにざっと調べましたが、念のため探知機を作って確認しました」
「はいっ!?」
じぶんで、つくった…?
鷹司と前田の顔が同じコトを物語っていたのだろう、山科は真面目な顔で頷いた。
「ええ。それほど高性能なものではありませんが、工学部の連中に聞いて作りました。FM波を使うタイプ以外のものがある可能性も否定できないので、大家に……累が及ぶといけませんので」
そういえばこの青年は物理学者だった、ということも思い出す。なんというか、鷹司としては彼の外見と語られる状況のギャップにまだ慣れない、
が、
「ん? 累が及ぶ?」
思わず気になった単語をオウム返しすると、山科は強く頷いた。
「ええ、家主が本来の被害者ですから」
「……は? あ、いや、それはつまり、盗聴する相手はそちらの大家さんいうことですか?」
「そう思います。そちらの前田さんにもお伝えしましたが、恐らく目的は私ではないです」
鷹司がちらっと横を向くと、前田巡査が首を竦めている。そんな重要な事をなぜ最初に言わない、と腹が立ったが、この青年を被害者と決めつけたのは自分だったことも思い出す。
またも間の悪さというか、噛み合わないもどかしさに足を取られ、舌打ちしたくなる。
これではダメだ、と鷹司は密かに褌を締め直す(締めてはいないが)。このままでは二の轍を踏む。
ようやく、鷹司は真っ直ぐ彼の目を見て訊ねた。
「言い切れるだけの、心当たりがおありだということでしょうか?」
「ええ、もちろん。大家は有名人ですので」
事もなげにそう言った山科は、そこでやっと微笑んだ。
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