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そこで次に訪れたのは、小林家近くにある、由緒ありげ、というか明らかに地主のお宅だった。
「ま、そうよね、まず私が容疑者になるわねえ」
「いや、よ、そういうわけでは!」
聴取の相手は、小林家の合い鍵を渡しているという近所の住人、齋藤真里氏である。聞けば、小林家の本来の相続人である小林投手の母親の友人で、かつ某大寺院の檀家総代に嫁いできた主婦だ。
彼女は気さくを通り越して突き抜けた人物で、「さあさあこっちに」と案内されたのは『本物のお客さん用』という客間ではなく居間の縁側で、そのまま聴取となった。
「でも、マリさんなら盗聴器仕掛けるより、うちにレコーダを置いた方が確実でしょう」
冷静に答えるのはもちろん山科青年で、そのあけすけさにまたもや鷹司が気を揉んでいると、
「ああー、そうかあ、その手があった」
「……止めて下さいね?」
「まあ、たかちゃんと先生の話を盗聴してまでいうのも……ほら、授業みたいな話のこと多いし、どうせなら隠しカメラ? の方がいいことない? たかちゃんの長い足も先生の綺麗な顔も見られるし」
「いや、講義の練習は別にやってますよ。ああ、違うな、仕掛けるのが格段に大変なんですよ、カメラは」
と、先生と呼ばれているらしい山科が適当に応えている。多分に論点はそこではない。
更に聞けば、オンシーズンはほぼ不在な小林投手やその家族、住んでは居るが学生に毛が生えたような山科の代わりに、家の掃除やメンテの手配などを担っているのが”マリさん”なのだという。元はといえば、小林家のオーナーで教師だった小林投手の祖母の教え子ということだ。
「では、山科さんが出張や長期の留守の間は、齋藤さんが偶に訪問していらっしゃる?」
「長閑な街ではありますが、界隈では大家も知られてはいますし、ご両親のご要望もあって。私も、他大学の集中講義や海外出張では月単位で不在にする場合もありますので」
山科の答えにそうそうと頷くまるっこい女性は、旧家を切り盛りしているだけあって頭と口の回転が早い。
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