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とにかく、ターゲットが絞れないことには捜査もままならない。
鷹司は出来るかぎり論理的な話し方を心がけ、山科に尋ねる。インテリは本当に厄介で、油断すると論破されてしまう。
「山科さんの生活の基盤が大学なのは分かりましたが、やはり盗聴の目的はプライバシィですので、ご自宅が標的になったと考えるべきです」
「ですが、あの家にこのタイミングで仕掛けるなら、やはり大家が目的と考えた方が妥当でしょう。私の部屋は離れですし」
なお、山科は小林家の母屋ではなく蔵を改装した離れで寝起きしているというが、本当に寝起きしかしていないらしい。
「でも、普段はあのお宅に小林投手はいらっしゃらないんですよね? なら、タイミングはたまたま山科さんの出張があったからであって、ペナントレースとは無関係な可能性もあります」
む、と山科が考える風情になったのを契機に、更に外堀を埋めるべく、鷹司は質問を重ねた。
「とにかく、今回の盗聴器の件は小林投手もご存じなんですよね?」
……
ぽかりと空いた間に、さすがに三人は声を上げる。
「えっ、まさか、」
「うそやん、まだ言うてないの?!」
「それはマズいんやないですか?」
まさか当事者に知らせていないとは。そのあたりの矛盾に鷹司も少し引っ掛かったが、山科は決まり悪そうに「まだはっきりしたことは何もないですし」とかなんとか言っている。
「秋季キャンプとはいえ大事な時期ですので、動揺させても。いずれ知るわけで……」
「いやいや、いやいやそれは」
「そんなん後でわかったら、たかちゃんすっごく怒るで? ありえへんわ、それ」
「そうですよ! お友だちにそんなこと秘密にされたら、穂高さん、泣くかもしれへん」
「店子としても信用を失いますよ、いくらなんでも」
非難囂々、というより集中砲火を受け、山科の端麗な顔が険しくなっている。何を隠したがっているのか知らないが、そもそも重要な危険性を見落としているのだ、この物理学者は。
鷹司は溜息を一つついてから、それを指摘した。
「ともかく、小林投手のご自宅、シーズン中はそちらなんですよね? にも、盗聴器が仕掛けられている可能性もあります」
そこで全員が「あ!」という顔になる。
「あ、それは……ただ、それなりにセキュリティのしっかりしたマンションですが」
「たかちゃんが球場の近くやゆうてた?」
「ええ。新しい分譲マンションで、もちろんオートロックですし」
「民間の集合住宅のオートロックはそれほど信用性が高うないです。いくらでも抜け道はありますから。場所は? 大阪の……」
現在は本人が他方に滞在中とはいえ、よく考えればそもそも最優先事項だった。鷹司は必要事項をメモし、前田巡査に所轄に連絡するように指示する。
場合によっては大阪府警に連絡を取り、手配をせねばならない。その前に京都府警にも話を通す必要がある。
一行は一旦、署に戻ることを決め、齋藤家を辞去したのだった。
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