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暑に戻り、一同で諸々の算段をはじめる。
更には、山科の周囲にも聴取の必要があるが、もう夕刻だった。状況からしても捜査は時間との勝負でもある。日曜日の大学にどれだけ人が居るのか、と危ぶんでいたところ、当の山科曰く、
「研究室のメンバなら、明日でも問題ないと思いますよ。ほとんど住んでいるようなものなので。私も普段、毎日行きます」
研究は365日24時間営業なのだという。最近話題のワーク・ライフ・バランスとは無縁らしい。
であれば、と翌日に山科の関係者に事情聴取を行うとして、時間や場所を調整してようやく今日の見切りを付けた。
しかし、このまま山科は盗聴器が仕掛けられたままの家に戻るのか、と思うと、鷹司としてもなんとも言えない気持ちになる。せめて自宅まで送ります、いやそれは、と問答していると、足音が近付いてきた。しかもカツカツと高く忙しない音で、
「あれ、せんぱい…? 山科さんですよね?」
明瞭な声には聞き覚えがあり、鷹司は思わず舌打ちしたい気分になる。よくない癖だ。しかし、それ以上にその声が山科を呼んだ衝撃で、思わず「はっ?」と声が出ていた。そして、それは物理学者にとっても同じだったようだ。二人は同時に振り返る。
「あやの…?」
「お久しぶりです! てか、こんなところで何してるんですか、えっ、まさかとうとう捕まったんですか?」
いきなり物騒なことを言ったのは、年若い(比較的という意味だ)ダークスーツの美女だ。警察官とは違う、しかし堂々とした明度の高い存在感は署内では異彩を放つ。彼女のことは鷹司も知っている、数少ない女性検事として府警でも有名な綾野検事だった。
知り合いだったのか? と、と二人を見比べる鷹司と前田を他所に、二人はそのまま会話を続ける。
「なんでいきなり容疑者側なんだよ、なに想定だ」
「あー、そうですねえ、宇宙開発について調べてたらアメリカ軍のサーバに侵入しちゃったとか。もしくは、結婚詐欺師として訴えられりするかも、とは思ってました」
「結婚詐欺って。なんでそんなピンポイントなんだ?」
「やー、山科さんなら、一方的に勘違いして騒ぐ輩がいてもおかしくないかなって」
脇が甘いんですよね、わりと、とショートボブの頭を振ってカラカラと笑う彼女の一方で、山科は綺麗な顔を顰めていた。見てる分には眩しいくらいの美男美女なのに、なぜか雰囲気は雑駁というか殺伐というか……
「あの、お二人は」
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