洋館の幻

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不安になった私は、友達数人と協力して、ヒロくんをそれとなく探ってみることにした。 数日後の夕方、友人の一人から連絡があった。 「今ヒロを見かけたんだけど、女と一緒に歩いてる」 メッセージと共に写真が送られてくる。 「そこに行く」 と返すと、友人は場所を教えてくれた。 私がその場に着くまでに、二人はカフェに入ったと友人は知らせてくれた。 私は友人にお礼を言って、二人のいるカフェに入り、ヒロくんのいる席に向かう。 「ヒロくん」 私の声に、ヒロくんは驚いた顔をした。一緒にいた女の人も同じ顔をした。 「少し、話せる?」 「……わかった」 ヒロくんは女の人に「ごめん」と小声で言うと、席を立って店を出る。 「家に行こう」 ヒロくんはそれだけ言って、アパートに着くまでは終始二人とも無言だった。 部屋に入り、リビングに鞄を置くと、ヒロくんはおずおずと口を開いた。 「さっきカフェで一緒にいた人は、会社の同期で。帰り道が一緒だから仲良くなって……」 しどろもどろに話す彼に詰め寄る。 「それじゃあ、最近会えない日が多いのは?」 「それは忙しいから」 「カフェに行く時間はあるのに?」 「……」 「それから、友達に聞いたよ。私が貸したお金、ほかの女の人とのデートに使っていたんでしょ」 付き合い始めて半年くらいたったころから、ヒロくんはたまにお金を貸してと言ってくるようになった。 些細な金額だったから貸していたけれど、返してくれたことは数度しかなかった。 つまり彼は、その時から浮気をしていたのだ。 そのことを問い詰めると、彼は諦めたようにため息をついた。 その顔にはいつもの笑みはなくて。冷たく、私を見ていた。 「まあ、前から束縛キツイとは思ってたけどさ。じゃあ、何?別れればいいの?」 「その前に、お金は返して」 「あんなはした金」 「はした金って、合わせればいくらになると思っているの!?」 私は思わず叫んで彼につかみかかる。 「うっさいな。(だま)されるほうが悪いんだよ」 「そうやってずっと(もてあそ)んでたの!?」 「そうだよ」 バカにしたような彼の笑いに、思わず私は殴りかかろうとする。 それよりも少し早く、彼は私を突き飛ばした。 あ、と思った時には遅かった。 私の体は後ろに倒れ、テーブルのかどに頭を打ちつけ。 電気を消した時のように、暗闇が一瞬広がって。 気が付けば、私は自分の体を見下ろしていた。 彼は私の体をゆすっていた。 「ナナミ、ナナミ」 と何度も私の名前を呼びながら。 しばらくそうしていて、私の体がもう二度と動かないと知ると、その場に力なく座った。 数時間、彼は動かなかった。まるで私と同じように、魂が抜けたみたいにそこに座っていた。その顔は、絶望で満たされていた。 やがて日が傾き始めて、オレンジの光がカーテンの隙間から私と彼を照らした。 ふらりと彼は立ち上がって、財布だけを持ってアパートを出ていき、日が完全に沈んだころ、彼は戻ってきた。 大きな大きな黒いボストンバッグをもって。 それを私の前に置くと、苦労しながら私の体をバッグに押し込んだ。 しっかりとファスナーを閉めると、重そうにそれを持ち上げて、抱えるようにしながら車まで運んだ。 後部座席の足元にそれを乗せると、彼はどこかへと車を発進させた。 彼は気付かなかった。彼が動かなかった数時間の間に、私はほんの少しの時間だけ自分の体に戻ることができて、指先を少しだけ動かせたことに。 彼がすぐに救急車を呼んでいれば、きっと私は―― ――――――
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