1人が本棚に入れています
本棚に追加
日はすっかり沈み、草むらで虫たちが涼やかな音色を奏でているが、熱気は未だに辺りに取り残されている。店から出てきた男は、涼しい店内と打って変わった蒸し暑さに思わず舌打ちした。
それにしても空気がいつも以上に肌にべたつくと思いながら階段を降り始めた途端、男は足を滑らせて体勢を崩した。よろめきながらも何とか階段を降りると、駐車場に向かう道に小さな水たまりができていて、街灯の明かりを淋しげに反射している。どうやら男が店にいる間、雨が降っていたようだ。
水たまりをかわしながら歩く男の姿は壮健な体つきに反して頼りなく、いささか滑稽である。
店の裏手から少し歩いたところにある有料駐車場に戻ってきて、男は首を傾げた。
「……俺の車、どこだよ」
縦横数十メートルの駐車場の七割がたは埋まっているように見えた。皆、同じような高さで、色合いも鈍い灰色。まるで工場での生産を終え出荷を待つばかりのようだ。来たときはこんなに駐車されていなかったはずだ。むしろガラガラだったから停めやすいところに適当に停めた。
最初のコメントを投稿しよう!