胸糞ピエロのからさわぎ

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「え、キモ……」  自然と声に出ていた。それからヤバい、親友を傷つけたという負い目をおわされた。傷つけたはずの桜木太陽は期待に沿った反応は見せなかった。 「キモくてごめん」  入学して最初の語学のクラスで、自己紹介した時の爽やかな顔で、太陽は言った。名は体を表すってやつかとイケメンへの僻みを呼び覚まされた当時のことを思い出しながら、俺ははっきり言って傷ついていた。  傷つく顔を予想していたからこそ、傷つかなかったなら俺が馬鹿みたいじゃないか。というか疑念の余地なくこの場面においてピエロは俺だ。とはいえキモいという言葉を吐き出した俺はピエロのなかでも愛されない、胸糞ピエロだ。ここは挽回しなくてはならない。 「いや、キモは違う、間違った。なんていうか……無理……?」 「無理も同じくらいひどいよ」  声を上げて太陽は笑い、胸糞ピエロの俺を置いて去っていった。俺の手元にはまだ半分は燃焼を残したアメスピがあって、それを吸い尽くすまで動けなかった。  4限の同じ講義のあと、校舎の裏のいつでも湿っぽい、ゴミ集積所の隣の喫煙所に行って、俺だけが喫煙をする。いつもの流れで、喫煙所には俺と太陽しか居なかった。その時に告られた。不意打ちだ。  太陽は、4限の後は帰宅するのみの身分である。俺は5限がある。狡いと思う。5限なんてただでさえ怠いのに、こんな胸糞ピエロの皮を被せられたまま受けろというのか。気遣いが足りないんじゃないか。告白するということは、俺のことが好きだということだろう。もう少し考えろ。  そう苛立ちながら出た講義はやはり集中できず、ラインでの太陽とのやり取りを読み返していた。直近は昨日のこと。「たまカフェ」「りょ」「ごめん遅れる」走るペンギンのスタンプ。企業キャラクターのペンギンだ。  そんなやり取りばかりで、馬鹿話はグループラインで主にやっている。一年の語学で一緒になった俺、太陽、成田、鳥居の四人のグループラインで、実際に話すのも四人が揃っている場が主だ。
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