妻の回答

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妻の回答

 なるほどね、主張は理解した。  Mさんの事例に即したそのシンプルな理屈は、確かに正しいと思う。ただしそこには、2つの前提があることを、キミは気付いてる?    まず1つ目ね。  一般的に言って、人が持つ財への需要は、数量が多くなるとともに逓減(ていげん)するってこと。  少しわかりやすい例でいうと、暖房器具を持ってない人が電気ストーブを欲しがる気持ちを100とすると、それを手に入れたあとに、もうひとつ欲しいと思う気持ちは30くらいに減る。予備として持つにしても、場所を取るからね。そして三つ目はもう要らないと考え、需要は0になってしまうかもしれない。    つまりね、Mさんのような嗜好パターンには「需要が数とともに逓減しない」っていう前提があるわけ。簡単に言うと、「いくら食べても飽きない」ってこと。    もう1つの前提を説明するよ。  一般に、財Aと財Bの間には「代替性」や「補完性」と言われる関係性があるの。前者は「片方があればもう一方は要らない」というもので、後者は「両方あるのが一番良い」というもの。これらは逆の性質なんだよ。  これを食事のメニューに当てはめると、とても細かい話になる。  例えば、肉と魚は代替性が強いと言えるんだ。メインディッシュは魚か肉のどちらかがあれば良いでしょ? でも、お寿司におけるサーモンとマグロは、補完性が強い。多くの人は、せっかくだから両方食べたいと考えるからね。ここで注視すべきは、この補完性のほう。    Mさんの嗜好パターンには「財と財の間の補完性が低い」って言えるんだよ。すなわち「いろんなものを食べたいとは思わない」ってこと。    キミはMさんと同じように特殊な人間で、この二つの前提を欠いているんだよね。  だから私の作るレンコンのはさみ揚げを、美味しい美味しいって言う。もうここのところ、ずっと作ってるよ。それなのに、また作ってほしいって言うの?  あれはけっこう手間かかるし、そもそも私はもう飽きた。9月6日は外食にしましょう。
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